――これはまだ日々の生活(じかん)が穏やかだった頃の風景。
未来(イマ)より少しだけ初々しい、ある魔法使いの物語。
『魔法使いの夜』体験版のネタバレ感想です。ヴィジュアルノベルが小説ではなく、絵本の派生であることをまざまざと見せつけられました。これぞ、まさに「動く絵本」、すなわち「魔法の絵本」ですよ!
◇
テキスト系のゲームを、初めてオートプレイすることになりそうです。それぐらい、ゲーム内で流れる「時間」に気を遣っている作品だと感じました。
自分の感想を詳しく述べる前に、あいばさんの感想記事が素晴らしいんで、ぜひぜひそちらを読んでほしいんですが、なかでも、
> それは「魔術と現代社会」でもいいし、「森と文明」でもいいのだけれど、共通して右側に来る一つのキーワードは「資本(主義)」だと思いました。(>魔法使いの夜体験版/感想:Fate/Zero Reviews Blog at Japan)
最初の一文が思わず膝を打ちました。なるほど確かに。これらの対比に対するあいばさんの読解については先のページでがっつり読んでいただくとして、僕個人としては資本主義といえば、「時間の加速化」というものがあげられると思います(もちろん他にも色々あると思いますが)。
まあよくも悪くも、最近時間が早くなっているなぁ、と感じることは、そう珍しくないのではないかと。生物的に長生きしていればそれだけ時間の密度が薄くなるから体感時間は早く感じるというだけでなく、流行廃りといったものも怖ろしい速度で衰退を繰り返していく。『ザ・インタビューズ』というサービスが少し前に流行っていましたが、今ではもうあまり見かけません(少なくとも自分のTL上では、あれほどみんなやっていたのが嘘のように、静かです)。
だけど、この『魔法使いの夜』は、今ほど時間が早くなく緩やかだった頃の物語。
――これはまだ日々の生活(じかん)が穏やかだった頃の風景。
未来(イマ)より少しだけ初々しい、ある魔法使いの物語。
80年代後半といえば、自分は生まれた頃だったので当然記憶はありませんが、幼少の頃を思い出し、今よりも少しは穏やかだったのだろうな、と想像ぐらいはできそうです。
そんな日々の中、青子は眠りという自分の時間を過ごそうとして電話に起こされ、有珠は本を読み続ける。そして、草十郎は庭の掃除をするには時間が足りないと嘆く。三者三様の時間の在り方。
これ、いちばん面白いと感じたのは、森から下りてきた草十郎が最も時間に対して「細かい」というところですね(庭掃除の時、ものすごくスケジュールを立ててから始める)。まあ、彼は「時間をお金に換える」アルバイトに精を出しているようなので、すでに資本主義的な生き方に馴染みつつあるということなんでしょうか。
彼らの時間の過ごし方を一つ取っても、青子の魔術と学校という二重生活っぷりや有珠の隠れ魔女っぷり、草十郎の境界者っぷりが透けて見えるところ。とくに青子は、いずれ世界に五人しかいない「本当の魔法使い」になることがわかっているので、現在の境界者的な立ち位置から逸脱していくわけで。
だけど、その未来から見て、きっと何もかも肯定するほど素晴らしかったわけではないけれど、それでもふと思い返して懐かしむ程度には素敵だった、そんな昔の日々を想う物語になるんだろうなぁ。
だから、単純に「昔はよかった」系の話ではないと思うんですよね。なので、僕も作品に望むスタンスとしては、時間がゆっくりだった日々を想いつつも、大人の態度で臨もうと思います。ほら、絵本とかいってましたけれど、子供の頃だと面白い物語を読んでいると、早く早く続きが読みたいと急かしてしまうじゃないですか。そこはグッとこらえて、この作品が持つ「時間」を感じていこうかと思います。四月の発売が楽しみです。
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コメント
お久しぶりです。ツイッターにも書きましたが、私も体験版、やってみました。仰るとおり、時間感覚が秀逸な作品ですね。体験版では断片的な収録なので、やはり製品版を見てみたくなります。
80年代後半、ちょうど自分は結婚した頃ですね。いまでは娘がBKCに通う大学生、って、時間とは恐ろしいものです。
この年になると、いい加減、精神が時間によって摩耗したことを実感することが増えてきます。だからこの手の奴には弱いんだなあ。supercellの曲にも惹かれてしまうし。体験版で、「星が瞬くこんな夜に」が鳴らなかったのは残念。
>すみれさん
>お久しぶりです。ツイッターにも書きましたが、私も体験版、やってみました。仰るとおり、時間感覚が秀逸な作品ですね。体験版では断片的な収録なので、やはり製品版を見てみたくなります。
こんばんは、お久しぶりです。本当に「時間感覚」が優れている作品ですよね。あまりにも、素晴らしかったので、あまりゲームをやらない人にもオススメしていきたい気持ちになりました。絵本感覚でも読めそうな感じに思えたので、届くところは広いのではないかな、と。
>80年代後半、ちょうど自分は結婚した頃ですね。いまでは娘がBKCに通う大学生、って、時間とは恐ろしいものです。
といいますと、娘さんとちょうど同年代ぐらいになるんですかね。すみれさんとは父母ぐらいでしょうか。それだけ時間の隔たりがあるにもかかわらず、こうして『魔法使いの夜』が結びつけてくれる辺り、時間を超越していくような作品なんだろうなぁ。
>この年になると、いい加減、精神が時間によって摩耗したことを実感することが増えてきます。だからこの手の奴には弱いんだなあ。supercellの曲にも惹かれてしまうし。体験版で、「星が瞬くこんな夜に」が鳴らなかったのは残念。
ノスタルジックでありつつも、新しい。そんな作品だけに、余計に、でしょうか。「星が瞬くこんな夜に」はEDだということなので、この曲がしっくり来るエンディングということを考えると、楽しみになってきます。何といいますか、もうただただ発売が楽しみです。
お返事ありがとうございます。
いやまったく、かもめさんのような、自分の子供と同年代の方と、趣味的な話で語り合うことができるというのは、不思議な感じです。
一昔前なら考えられないようなことであり、携帯電話を含むソーシャルネットワークが、人の関係性をすっかり様変わりさせてしまったのを感じます。
物語の冒頭、ひたすら鳴り続ける電話のベルはその象徴でしょうか。離れた場所の人間と話すためには、相手が電話に出てくれるのを待つしかなく、電話のある場所までの移動時間は誰にでも平等に許されていたあの頃。
物語はどこに向かうのか。願わくばテクノロジーがひとの尻を叩き続けるような世界ではありませんように。
>すみれさん
>お返事ありがとうございます。
再びコメントありがとうございます。
>いやまったく、かもめさんのような、自分の子供と同年代の方と、趣味的な話で語り合うことができるというのは、不思議な感じです。
ほんとうに。こうやって自覚しますと、とてもびっくりするような関係をいつの間にか作っているんですね。不思議なものです。
>一昔前なら考えられないようなことであり、携帯電話を含むソーシャルネットワークが、人の関係性をすっかり様変わりさせてしまったのを感じます。
>物語の冒頭、ひたすら鳴り続ける電話のベルはその象徴でしょうか。離れた場所の人間と話すためには、相手が電話に出てくれるのを待つしかなく、電話のある場所までの移動時間は誰にでも平等に許されていたあの頃。
だけど、こういう時代だからこそ、直接会って話すというのが、とても大切なもののように感じることも多くなりました。それはたぶん電話を取りに行くという一手間をかけるだけの意味があったのと、本質的には同じもののような気がしています。
>物語はどこに向かうのか。願わくばテクノロジーがひとの尻を叩き続けるような世界ではありませんように。
それは安心してもよいでしょうね。なにせこれは、ほんものの魔法使いの物語ですから。