――これはまだ日々の生活(じかん)が穏やかだった頃の風景。
 未来(イマ)より少しだけ初々しい、ある魔法使いの物語。


『魔法使いの夜』体験版のネタバレ感想です。ヴィジュアルノベルが小説ではなく、絵本の派生であることをまざまざと見せつけられました。これぞ、まさに「動く絵本」、すなわち「魔法の絵本」ですよ!


 テキスト系のゲームを、初めてオートプレイすることになりそうです。それぐらい、ゲーム内で流れる「時間」に気を遣っている作品だと感じました。

 自分の感想を詳しく述べる前に、あいばさんの感想記事が素晴らしいんで、ぜひぜひそちらを読んでほしいんですが、なかでも、

> それは「魔術と現代社会」でもいいし、「森と文明」でもいいのだけれど、共通して右側に来る一つのキーワードは「資本(主義)」だと思いました。>魔法使いの夜体験版/感想:Fate/Zero Reviews Blog at Japan

 最初の一文が思わず膝を打ちました。なるほど確かに。これらの対比に対するあいばさんの読解については先のページでがっつり読んでいただくとして、僕個人としては資本主義といえば、「時間の加速化」というものがあげられると思います(もちろん他にも色々あると思いますが)。

 まあよくも悪くも、最近時間が早くなっているなぁ、と感じることは、そう珍しくないのではないかと。生物的に長生きしていればそれだけ時間の密度が薄くなるから体感時間は早く感じるというだけでなく、流行廃りといったものも怖ろしい速度で衰退を繰り返していく。『ザ・インタビューズ』というサービスが少し前に流行っていましたが、今ではもうあまり見かけません(少なくとも自分のTL上では、あれほどみんなやっていたのが嘘のように、静かです)。

 だけど、この『魔法使いの夜』は、今ほど時間が早くなく緩やかだった頃の物語。

 ――これはまだ日々の生活(じかん)が穏やかだった頃の風景。
 未来(イマ)より少しだけ初々しい、ある魔法使いの物語。


 80年代後半といえば、自分は生まれた頃だったので当然記憶はありませんが、幼少の頃を思い出し、今よりも少しは穏やかだったのだろうな、と想像ぐらいはできそうです。

 そんな日々の中、青子は眠りという自分の時間を過ごそうとして電話に起こされ、有珠は本を読み続ける。そして、草十郎は庭の掃除をするには時間が足りないと嘆く。三者三様の時間の在り方。

 これ、いちばん面白いと感じたのは、森から下りてきた草十郎が最も時間に対して「細かい」というところですね(庭掃除の時、ものすごくスケジュールを立ててから始める)。まあ、彼は「時間をお金に換える」アルバイトに精を出しているようなので、すでに資本主義的な生き方に馴染みつつあるということなんでしょうか。

 彼らの時間の過ごし方を一つ取っても、青子の魔術と学校という二重生活っぷりや有珠の隠れ魔女っぷり、草十郎の境界者っぷりが透けて見えるところ。とくに青子は、いずれ世界に五人しかいない「本当の魔法使い」になることがわかっているので、現在の境界者的な立ち位置から逸脱していくわけで。

 だけど、その未来から見て、きっと何もかも肯定するほど素晴らしかったわけではないけれど、それでもふと思い返して懐かしむ程度には素敵だった、そんな昔の日々を想う物語になるんだろうなぁ。

 だから、単純に「昔はよかった」系の話ではないと思うんですよね。なので、僕も作品に望むスタンスとしては、時間がゆっくりだった日々を想いつつも、大人の態度で臨もうと思います。ほら、絵本とかいってましたけれど、子供の頃だと面白い物語を読んでいると、早く早く続きが読みたいと急かしてしまうじゃないですか。そこはグッとこらえて、この作品が持つ「時間」を感じていこうかと思います。四月の発売が楽しみです。

魔法使いの夜 初回版 (Amazon.co.jpオリジナル特典ポストカード付)
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TYPE-MOON (タイプムーン) エース Vol.7 2012年 01月号 [雑誌]
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