「もうおまえを姫とは呼べないな」(ミハエル・ブラン)上映中の『劇場版マクロスF サヨナラノツバサ【恋離飛翼】』のネタバレ感想です。こちらは、いつも通り内容を掘り下げていく記事となります。
◇
ランカが振られることをわかっていながら、自分の気持ちに決着を付けるべく想いを伝えるシーンや、シェリルが自分の命を懸けてでも歌うシーン、あるいはグレイスとシェリルとの関係など、語るべきところはいくつもあるとは思いますが(この辺りはパッケージ化されたときにでも)、やっぱりこの完結編を見た直後に語るとすれば、アルトのことでしょう。
姫だなんだと言われ続けたアルトが、紛れもない「漢」として飛び立ったシーンはやばかったです。燃えた。まさか、アルトくんに燃える日が来るとは思わなかった(笑)。
イツワリノウタヒメの感想にも書きましたが、『マクロスF』という作品は結局のところ「出会い、愛し、愛される」ことがテーマで、アニメ本編の方ではその中でも「出会い」の方にフォーカスされていました。その結果として、アルトが家を飛び出してまでも、目指した「飛翔」行為は誰かと出会うためのものだっと裏返る最終話が素晴らしかったわけです。
ですが、その一方で、実は自身の家問題、女形という「役者」とどう向かい合っていくのか明確に描かれてはおらず、そこだけ消化不良になっていた。家問題に決着がつかない限りは、「出会い」のあとの「愛し、愛される」パートに移行できない(誰かを愛するということは、最終的には家庭を持つことだから)。
だから、三人の「出会い」の場面を飛ばしてまでも、「愛する」パートに重点を置いている劇場版では、きっとアルトがその問題に答えを出すはず……。そんな期待を、アニメ版の「続き」として、劇場版を見ることを勧める記事にも書きました。
そして、そんな期待は軽く上回っていったサヨナラノツバサ。これは心底震えた。
シェリル救出時、何気なくアルトくんが「女装」していたりしましたが、これって自分なりに「女形」に向かい合うことが出来たからこそですよね(それまで頑なに拒否していた)。オズマ隊長の「俺はガキだ!」宣言から来る、誰もが――役者じゃなくても――何か役を演じて生きている。だから、俺たちに出来るのは、その「役」が一体どんなものかということを決めるだけ。
元々アルトくんが悩んでいたのは、役にのめり込むことで「自分」がいなくなるのではないかという不安だった。だけど、それは実は小さな悩みだった。ここに来て、これまでずっと視覚的に是として描かれていた「閉鎖空間をぶち破っていく」描写を転覆させるとは思わなかった。むしろ劇場版で問われているのは、閉じ込めるのでもなくぶち破るのでもなく、アルトは一体何を纏うのかということ。
#これ、イツワリノウタヒメを今朝方見返していて気づいたんですが、シェリルの気持ちを察するとき、シェリルの姿を纏っている(この時なぜかアルトはシェリルと同じように、フォールドクォーツを耳に付ける)んですよね。
そして、女の姿を纏うことで、役者としての自分に決着をつけたアルトですが、この後がすごかった。なんと彼は、バジュラの気持ちになれば、攻撃を躱せると、バジュラを纏うのである。これ、本当にその手があったのか、と痺れた。バジュラにだって気持ちがある、心があるという話なので、理詰めで考えればその通りなんだけど、この展開を大真面目にやりきったのが、すげえ。
そして、この舞こそが、「漢」早乙女アルトとしての飛翔行為。彼が、本当の意味で飛んだ瞬間。シェリルたちも言っておりましたが、本当にただただ美しかった。
◇
そして、だからこそ、アルトは行方不明、シェリルは眠りにつくという彼らの結末にまったく悲しみを感じなかった。悲恋と言いたくなる気持ちもわかるんですが、これ以上ないまでに、彼らはすべてを出し切っていたんだから。想いを伝えあったのだから。
#アルトなどは特にイツワリノウタヒメ冒頭で、「堕ちてもいいから飛びたい」とそう言っているんですね。そして、シェリルにとって「歌は祈命(いのち)」。
「愛している」という言葉を、アルトもシェリルも相手に伝えられたのか。「想いを伝える石」フォールドクォーツが直後に光っているので、すべてちゃんと伝わっているはず。
だからこそ、すべてを伝え終わったあと、BGMも挿入歌も台詞も効果音も音という音がすべて消えて、生まれた「一瞬」の静けさ。歌がテーマだというマクロスシリーズだけど、本当に何かが僕らに伝わったのはこの「刹那」ではないかな、と、そんな風に思います。

劇場版マクロスF ~サヨナラノツバサ~ Blu-ray Disc Hybrid Pack 超時空スペシャルエディション (PS3専用ソフト収録) (初回封入特典 生フィルム同梱)

劇場版マクロスF ~サヨナラノツバサ~ Blu-ray Disk Hybrid Pack (通常版) (PS3専用ソフト収録) (初回封入特典 生フィルム同梱)
クチコミを見る
→前回「アニメの続きとして劇場版『イツワリノウタヒメ』」へ
→『マクロスフロンティア(マクロスF)』の感想インデックスへ

![猫物語(白) 第一巻/つばさタイガー(上)(完全生産限定版) [Blu-ray]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51o%2BvS11kdL._SL160_.jpg)
コメント
はじめまして。
ダーカーの記事等いつも拝見させて頂いてます。
毎度の考察で凄い所に目がいくものだと・・・。コメントするのは初です。
自分もマクロスFサヨナラノツバサ観ました。
どうしても物申したい所がありまして・・・かもめさんが映画の違う解釈とかに気付いて下さった後の考察がみたいなぁと思ったり・・・。
もし再度行かない場合はスルーして下さい。
映画の中で、初めと最後の10分くらいをかなり注意してみると、評価がガラリと変わると思いますよ。
自分は監督すげーー!!!と感激しました。なんというか二度美味しいみたいな。解釈がひっくり返ったというか。
あんまり言うとネタバレになりそうなので、後日観る機会があれば見てみて下さい。
(色々なサイトでネタバレありますが・・・)
自分は流石に1回目の視聴では全然分からずポカーンな感じでしたが・・・。2回目余裕を持って観ると、色々なところに目が行くので特にサヨナラノツバサは2回目以降の視聴お勧めですよ。
話変わりますが、監督のインタビューの中で、「ランカとアルトの精神年齢を1歳〜1歳半上げた」というのがあって、更に「劇場版はTVシリーズの続き」みたいなコメントもあったんですよ。
かもめさんの記事にも同じようなことを考察されていたので、流石だなぁと感嘆していました。
とりとめのない文章でスミマセン。今後も記事楽しみにしていますので、頑張って下さい。
>yama-dさん
>はじめまして。
>ダーカーの記事等いつも拝見させて頂いてます。
>毎度の考察で凄い所に目がいくものだと・・・。コメントするのは初です。
どうも、かもめです。初めまして。
何かこの頃ダーカー関連で続けてコメントをいただくのが、面白い気がします。やはり、黒<ヘイ>さんのフィギュアが発売され、活気づいているからなのでしょうか(笑)。
なるべく誰も見ていないところを見ようと思っているので(わざわざ掲示板などの「集合知」ではなく、個人の意見を読みに来てくださっているので)、そう言っていただけて、嬉しいです。
>自分もマクロスFサヨナラノツバサ観ました。
>どうしても物申したい所がありまして・・・かもめさんが映画の違う解釈とかに>気付いて下さった後の考察がみたいなぁと思ったり・・・。
>もし再度行かない場合はスルーして下さい。
もう一度行こうかとは思いますが、地元では放映されていないので、時間が作れるかどうかちょっと微妙かもしれないです。もし行けなかった場合は、Blu-ray発売時にでも(今夏発売ということですし)、再度考察記事を書かせていただきますね。
>映画の中で、初めと最後の10分くらいをかなり注意してみると、評価がガラリと変わると思いますよ。
>自分は監督すげーー!!!と感激しました。なんというか二度美味しいみたいな。解釈がひっくり返ったというか。
ああ、なるほど。そうか、つまり、ちゃんと「描いている」わけですね。最初のライブに入るシーンに対して、どうも違和感を覚えていたので、yama-dさんのコメントで腑に落ちました。すげー。これは「ぐうの音」も出ない。
続きます
続きです。
>あんまり言うとネタバレになりそうなので、後日観る機会があれば見てみて下さい。
>(色々なサイトでネタバレありますが・・・)
>自分は流石に1回目の視聴では全然分からずポカーンな感じでしたが・・・。2回目余裕を持って観ると、色々なところに目が行くので特にサヨナラノツバサは2回目以降の視聴お勧めですよ。
確認後、また記事にさせていただきますねー。ヒントを教えてくださって、ありがとうございます。パンフレットのインタビューを読むだけでも、河森監督は相当いろんなものを詰め込んで、この作品を作り上げたのがわかりますし、もう何度か見て、落とし込んでからまた語りたいですね。
>話変わりますが、監督のインタビューの中で、「ランカとアルトの精神年齢を1歳〜1歳半上げた」というのがあって、更に「劇場版はTVシリーズの続き」みたいなコメントもあったんですよ。
>かもめさんの記事にも同じようなことを考察されていたので、流石だなぁと感嘆していました。
監督の意識としては「出会い、愛し、愛され」というテーマの内で、アニメ版は「出会い」に焦点を当てていたということでしょうかね。アニメからのファンにとっては、2クール分の物語(情報量)をすでに担保されているので、三人の出会いをばっさり切ったイツワリノウタヒメは、「すごいな!」と思いました。
もちろん新しいユーザーにも届けないと行けないので、表面的には仕切り直しているのですが、それが結果として、これこそが僕らファンが見たかった『マクロスF』になっているのが、素敵ですね。
>とりとめのない文章でスミマセン。今後も記事楽しみにしていますので、頑張って下さい。
ありがとうございます。これからも、いままでのような、ちょっと尖った記事を書き続けるので、よろしくお願いします。