
劇場版『マクロスフロンティア(マクロスF) 虚空歌姫〜イツワリノウタヒメ〜』のネタバレ感想です。映画館で観た時の感想はこちらにあるので、今回はちょっと違う観点から。
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先の感想記事にも書いていますが、マクロスFという物語は、人もバジュラも誰かに出会い、愛するために旅をする、そんな物語として描かれました。それは、本編ラストでアルトの逃避が、実は誰かと出会うための「飛行」だったと意味が裏返っていく、そんなところからも読み取れます。
アルトが歌舞伎ひいては「家」から飛び出した結果として、シェリルに出会い、ランカと出会い、そして、もしかしたらどちらかと恋をするかもしれない(ヒロイン同士の「負けませんから!」という宣戦布告から)。それがアニメ『マクロスF』だった。
そして、これは劇場版『マクロスフロンティア』。
Blu-ray版に付いている『CINEMA ARCHIVE』によれば(河森正治監督のインタビューが載ってます)、相当苦労して、アニメ本編の圧縮を図ったようですが、結果としてすごくアニメの「続き」になっているのが面白いです。
アルトとランカの出会いがカットされたり、彼女たちとの関係が一気に進む……、三人が徐々に惹かれあっていくのがアニメですごく気に入っていた部分なのに、という批判もありそうですが、個人的にはこれで良かった。アニメの方で描いておいた「出会い」をばっさり切り取って、彼らがどうやってお互いを愛するようになるのか、に焦点が当てられている。
なので、アルトとランカは当然のように出会っているし、シェリルの方は過去にギャラクシーで会っているのでは?という含みを持たせているんですね。彼らは、すでに(アニメで)出会っているわけだから、すぐさま本編ラストの「負けませんから!」という宣戦布告通り、アルト争奪戦(笑)を開始する。
そんな視点で見ると、ちゃんと「繋がっている」感じが出て、楽しいですね。
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そして、シェリルの「わたしは一人じゃないってわかったから……」という言葉も、そういう流れから来ているんだろうなぁ(もちろん文字通り、スラムで独りだった時を踏まえているんですが)。これは、アニメ本編を見ている時から感じていたんですが、シェリルにはアルトしかいないんですよね。ランカの方は二人も兄がいるんだけど、シェリルには本編終了時にそこまで親しい人間がいない。
こういう状況だと、アルトとシェリルがくっつかない限りは「救い」がないような状況になってしまっているので、それを解消するために劇場版では彼女の「孤独」を癒す必要があった。アルトを巡って、対等にランカと戦うためには必要なプロセス。ガチンコ対決のための布石。もしこの「癒し」が描かれなかったのなら、後編でアルトと結ばれるのはシェリルだろうなぁ、と考えるんですが、これでわからなくなってきましたね。
シェリルはおそらく「プロフェッショナル」としてのアルトに惹かれていて、ランカの方は「素」のアルトに惹かれている。
ギャラクシーに来たことがある(おそらくは歌舞伎の仕事で)といったアルトに「やっぱりね」と返し、彼とのプライベートの関係を「遊び」と称するシェリル。
舞台の仕事に取り憑かれ、自分が無くなってしまうんじゃないかと恐怖するアルトに、「アルトくんはアルトくんだよ」と素のアルトを肯定してあげるランカ。
アルトを中心に対称的な二人。ここまで来ると、シェリルが歌う(本作の「飛ぶ」と同義)理由はアルトなんだろうなぁ、と。これはまあ、ランカが飛ぶ、すなわち歌うきっかけになったのがアルトっていうところからですが。
素の自分か、プロ(社会的な?)の自分か。
一昔前の潮流としては、個人だよ個人って感じだったんだけど、今は、いやいや個人としての自分も確かに大事だけど、社会的な自分も大事だよな、というのが割と一般的な感覚なのかなぁと思います(その狭間で、行ったり来たりしてもがくのがポピュラーですね)。
なので、多分これらの二面性を肯定した後にどうなのか、ってお話に持って行くのかなぁ、と(実際、アルトは「プロ」としてのシェリルも、「素」のシェリルも認めているし、彼自身が女形もやっているという意味で男と女のという「両義性」をもっているキャラとして描かれている)。シェリルの黒うさぎ、白うさぎというステージ衣装もそういう二面性の描写として描かれているんですね。今度の魔法少女っぽいランカもおそらくは同じ意味。
そんな二面性が描かれている中で、アルトだけは特別で。彼はパイロット、学生(=素の自分)、そして、(今は背を向けている)歌舞伎役者という三つの側面を持っているわけですね。
で、これは僕の予測ですが、本編では結局アルトは歌舞伎=家に決着を付けられなかったので、今回の劇場版ではそこの決着も描くんじゃないかなぁ。誰かを愛するということは、家族を持ち、家を持つということだから、家に対する決着はつけないことには始まらない。
そういう意味では、起源が歌舞伎役者としてのアルトにありそうなシェリルとくっつくんじゃないかなぁ、と僕は予測しますが、スタッフはかなりのランカ好きだからどうなんだろうなぁ。いや、まあこの予測はシェリルが大好きな僕としてのひいき目がだいぶ入ってますが。
しかし、考えれば考えるほど、彼ら三人は三人一緒でこそ完成されている。そんなキャラクターたちなので、この中の二人がくっついて、「本当にそれしかない!」という関係になるのか、後編を楽しみに待ちたいと思います。あー、でも、あれだ、フロンティアってちゃんと一夫一妻制なんだよな。一夫多妻制が普通とかないよね(笑)。
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