絶園のテンペスト 2 (ガンガンコミックス)「そのタイトルは『テンペスト』」(不破愛花)

 城平京原作の『絶園のテンペスト』第二巻のネタバレ感想です。収録話については月刊少年ガンガン掲載時に書いた感想の再掲+書き下ろし感想になってます。単行本派の方は、この機会にまとめてお読み頂けたらなと。


■第05話「矛盾する、頭蓋」

 一月半前に鎖部葉風の遺体を確認したという、潤一郎と左門の会話の真偽を巡る今回のお話。あの死体は本当に葉風なのかと。最新の2010年3月号にてそれは事実で、葉風がいる孤島と今では二年間の隔たりがあるということが明かされているわけですが、このお話のもうひとつの焦点はおそらく「はじまりの樹」の加護を受けているはずの葉風さんがなぜ死んだのかというところでしょうか。

 その辺り、先に引用した潤一郎の言葉に、左門がはっきりと答えていないというのが、いかにも怪しいところ。鳥や磯の生物に喰われているにも関わらず、葉風の死体があまりに綺麗に残っているのも、不思議ですね。いってしまえば、潤一郎は頭蓋骨でしか葉風を特定していないので、それから下が別人で、すり替わっているみたいなトリックとかも考えられそうです。というか、判断した根拠が頭蓋骨だけなのであれば、葉風のように頭が綺麗な女の子の死体を使ったのかもしれません。

 色々と疑わしいところがある「葉風ちゃんの死体」ですが、本当に死んだのかという疑問と、なぜ死んだのかという疑問がセットで掲示されているのが、今回の面白いところです。



■第06話「どうなりたいかは、わからない」

「兄弟っていっても 血はつながってなかったしさ」(エヴァンジェリン・山本)

 割とこの辺りから「抗えぬもの」が出始めてきたような気がします。城平さんの作品にはよく運命だとか抗えないものを出てきて、それに抗うことが結論であったり(スパイラル)、それを受け入れることで物語を終わらせたりしますが(ヴァンパイア十字界)、『絶園のテンペスト』もやっぱりそういう流れなのだな、と。

 というか、それの集大成っぽい。

 前々から「はじまりの樹」の「理」がそれに当たるのかなぁ、と思っていたのですが、今回もうひとつ出てきました。それが真広にとって抗えぬこと、妹との関係であるということですね。血の繋がっていない妹に、「恋」してしまったこと。それを受け入れられず、何の行動も起こせなかったことを彼は悔いてもいるのかな、と。

 結局のところ、彼は愛花の死を受け入れていないわけです。蘇らせて欲しいとは一言も言わなかったかもしれないけれど、それでも彼女の死を受け止めたわけではなく、だからこそ、不合理を不合理で打ち消して正してやろうなんて思ってしまうわけで。「抗えぬもの」(=妹の死)に抗い続けているのが、真広なのかな、と。

 その一方で、不合理は不合理なままと、抗えぬものを受け入れてしまっているのが、吉野の方で。その辺りの「揺れ」が今後楽しみですな。

 で、多分これ、「理」と「愛花の死」が、マクロとミクロの両面から「抗えぬもの」としてのしかかってくるんだろうなぁ。そういう意味で、はじまりの樹の「理」と「愛花の死」は密接に関わっているんじゃないかな。これらに抗うのか、受け入れるのかというのが、多分本作のクライマックスで、僕は「抗う」と思ってます。



<書き下ろし感想>

 んー、現行の最新話(2010年9月号)で、時間の檻を破ったところで、愛花の問題が出てくる(愛花を殺したのははじまりの樹の「理」)ことといい、今回吉野が反撃を行うきっかけになったことといい、物語は愛花中心に回っている。

 これって、つまりは、同じく城平京原作の『ヴァンパイア十字界』における過去話(作中何度も何度も意味合いが変わっていく)に当たるのが、「愛花の死」ってことになるんだろうなぁ。

 今回愛花の記憶をきっかけに反撃の狼煙をあげることになるわけだけど、それでも(例え時間の檻を破り、葉風を救ったところで)愛花は生き返ることがない。二話目ぐらいで、そこに関しては予防線を張っているので、ここはブレて来ない部分かなぁ、と思います。はじまりの樹の魔法に、死者を生き返らせるものがない以上、やっぱり彼女はどうあっても蘇らない。ちなみに、葉風が時を越えて戻ってこれるのは、最新話でもその可能性を語られてますが、最初から死んでなかったから(あれだけ綺麗に骨が残っているのは、やっぱり肉だけを移すという魔法を使ったからだと思います)

 結局、この『絶園のテンペスト』というのは、愛花は何故殺されたのか、あるいは何故死んだのか? という問いを巡る物語なのだ。愛花が死んだという事実は変わらないんだけど、その死にいろんな意味が付加されることで、最終的には文字通り『テンペスト』のような、皆幸せになる物語になる(ここには当然愛花も入る)。

 今回彼女が死ぬ前に言った一言が、吉野を立ち上がらせるきっかけになったように、そんな彼女の想いが、時を越え、空間を越え、魔法のように届く、そんな物語なのだ。

「いったい死んだ彼女に 何ができるんでしょうね。ひょっとするとこの関節の外れた世界でなら、見つかるかもしれません」(滝川吉野)

絶園のテンペスト 2 (ガンガンコミックス)
絶園のテンペスト 2 (ガンガンコミックス)

→読んでおくと、より本作が楽しめるかも。

ヴァンパイア十字界 1 (ガンガンコミックス)
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