
『Darker Than Black−流星の双子(ジェミニ)−』第十二話「星の方舟」のネタバレ感想です。あんまり好きじゃないんですが、メタフィクションの観点を入れると、ラストの解釈がわかりやすいと思います。離れていった地球はまんま『流星の双子』。
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メタ的に解釈すると、コピーされた地球が『流星の双子』世界で、未咲たちが残ったのが『黒の契約者』世界なわけですよ。最終的に、『流星の双子』世界が離れていったことで、『黒の契約者』 世界が持続されることになった。だからこそ、『流星の双子』は前期ラストの結論――人と契約者の共存――が否定されたお話にはならなかったわけですね。コピーされた地球には契約者がいないので、一見前期を否定しているかのようですが、コピー地球を本来の地球から離すことで、前期の結論と今期の結論を両立させている。前期のようなヤツらはヤツらでちゃんと生きてます、二つは別個のお話ですよ、って感じですね。
第一話でエイプリルを退場させた辺りで、第一期を壊しにかかっているなぁ、と思ったんだけど、奇しくもそれがそのまま実現されたのが、この『流星の双子』という作品だったんじゃないかと。良い意味で『黒の契約者』世界を壊して、ちょっとだけ進めてくれました。
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『黒の契約者』という物語は何だったのかというと、黒<ヘイ>が過去と決別して、現実に立ち向かい始めた物語ですよね。妹白<パイ>と再会するという夢を持っていた彼が、最後にそれを放棄して、世界と向き合う、現実へと立ち向かっていくというお話だった。ここで現実へと立ち向かっていくために、人と契約者がわかりあう未来という新しい夢(未来)を描いたのだけれど、それが砕けてしまったがこの第二期『流星の双子』で(というかその間の黒の契約者外伝)。
で、その結果として、今回彼はイザナミこと銀<イン>を殺さずにはいられない状況に立ってしまった。人と契約者の共存という夢を抱いたのに(黒<ヘイ>と銀<イン>もまた人と契約者の組み合わせ)、それが叶わないというのがわかってしまった。だから、この『流星の双子』という物語が始まった時点では、彼は銀<イン>を殺さずに世界を救うという可能性(夢)を見ることができなかったわけですよ。
だけど、これは願望でもあるんですが、それが今回の『流星の双子』を通じて変わっていった。この作品自体がメタ的に言えば、紫苑の「夢」だったわけですが、その夢を通じて、黒<ヘイ>の選択もまた変わった。アンバーが三鷹文書を忠実に再現してほしいと願っていたことからも、それはわかると思います(災厄は起こるかもしれないけれど、希望はこの未来にしかなかった)。
一期ラストに人と契約者の共存を願って、だけど、銀<イン>の覚醒によってその夢を砕かれた黒<ヘイ>が、再びその夢を抱いて、災厄に挑もうとしたのがこの物語だったのではないかなぁ、と思ってます。
「私を殺して」という銀<イン>の言葉のあと、一期を彷彿する彼の穏やかな表情がそれを物語っているんじゃないかぁと。そして、同じく人と契約者の共存という夢を見ながらも、四課を追い出されて、その夢を見ることができなかった未咲さん。彼女もまた黒<ヘイ>とは別のきっかけで夢を失ったのが、今回新しい「組織」を作ることでまた同じ夢を見始めた。
最後に未咲によって、改めて黒<ヘイ>は同じ道に立ったと語られたけれど、それが明確に語られる――というか、黒<ヘイ>の選択がわかる――のは、外伝視聴後かな、と思ってます。現段階で妄想込みで『黒の契約者』として解釈してますが、多分外伝視聴後に見るとちゃんと『黒の契約者』になっているんだろうな、と。『流星の双子』でもあり、『黒の契約者』でもある。そういう凄まじい構造になっているんだろうなぁ、と思うと、今からやばいですね。すごすぎる。
それでも私は彼が生きていると、信じている(霧原未咲)
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では、この『流星の双子』が『黒の契約者』世界に影響を与えるだけのものだったのかというとそうではないんじゃないかと。まず前提として、この『流星の双子』は『黒の契約者』のセルフパロディ、というか二次創作みたいなものですね。シミュラークルとか呼ばれているやつでしょう。
紫苑の能力がコピーで、一部属性を反転しているのは明らかですが(だから、最後の銀<イン>のような少年は彼のコピーのはず)、この『流星の双子』も『黒の契約者』のコピーで一部反転していると思うと、わかりやすいですね。EDがabingdon boys schoolでOPが「ツキアカリ」なのも、ある意味反転。そして、「恋」「ゲート」「得る代わりに失う」辺りのキーワードが、奇しくも前期第十一・十二話「壁の中、なくしたものを取り戻すとき…」と酷似しているのも面白いところ。
言ってみれば、この『流星の双子』は『黒の契約者』が第十二話で終わってた場合のifのようなものなんじゃないかなぁ、と思うわけです。十二話に拘っているのもその辺りに原因があるんじゃないか、と。前期第十二話も黒<ヘイ>にそっくりなニックが登場したエピソードでしたが、蘇芳もまた黒<ヘイ>自身が語っているように彼に似ている。黒<ヘイ>とニックの夢は同じで、紫苑は言葉では否定していますが蘇芳と同じように家族での団らんを夢見ていたように描写されている。この辺りの類似点を洗っていくと、狙ってやっているとしか思えないんですが。
でも、ラストが違う。前期十二話では黒<ヘイ>が同じように夢を見ようとはしなかったんですが、今期十二話では蘇芳がその夢を願った。ここもまた反転している。紫苑のコピーのように同じだけど、どこか違っている。
そして、『流星の双子』が『黒の契約者』のコピーであるならば、当然本編中に蘇芳が思い悩むように偽物なわけですよ。僕たち前期のファンからすると、どうもしっくり来ない部分がある。だけど、未咲が、黒<ヘイ>が、ジュライが、第一期のキャラたちがそれを否定してくれた。特に、ジュライに至っては
「僕は蘇芳と一緒にいるのが好きなんだ」(ジュライ)
といって、本来の居場所であった『黒の契約者』世界から『流星の双子』世界まで渡ってくれたわけですよ! そんな作品そのものが蘇芳と同じく虚構であったのに、それを第一期のキャラが認め、結果として『Darker Than Black』という名前を冠した作品として独り立ちしていった、という意味では間違いなく大団円だったかなぁ、と思ってます。
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岡村天斎監督をはじめ、スタッフの方々、素晴らしい作品をありがとうございました。三ヶ月間おつかれさまです。まだDVD&Blu-ray収録の外伝はありますが、ひとまずはここで僕のDarker Than Black感想は終了です。それでは、皆さん。また外伝を見た時にでも会いましょう。
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→前回第11話「水底は乾き、月は満ちる」の感想へ
→次回黒の契約者外伝第01話の感想へ
→岩原裕二『Darker Than Black−漆黒の花−』の感想インデックスへ
→第一期『Darker Than Black−黒の契約者−』の感想インデックスへ
→『Darker Than Black−流星の双子(ジェミニ)−』の感想インデックスへ
コメント
最終話の視聴を終わって2日たっていますが未だに終わりから5分前くらいの時の展開に困惑して「流星の双子」の解釈に困っていたのですが、かもめさんの感想を見てかなり助けられました(笑
なるほど、流星の双子というのは黒の契約者のコピーだったというわけですか!
>星の方舟
札幌辺りで出てきた方舟というキーワードが、文字どうりそのまんまの意味でつかわれるとは(笑
そしてこの方舟なんですが、蘇芳とジュライこそいますが、契約者である紫苑がいないんですよね。(紫苑だけじゃなくて他の契約者も)
そして、本来の地球のほうでもイザナミが生きているようですし。
要するに契約者は結局救われるこのない存在ということじゃなんじゃないかと、
Darker than blackは救われない人たちの物語なんじゃないか、というのが放送を観終わって思ったことです。
なんだか、自分で書いてても安易な発想のような気がしますが(笑
なにはともあれ、この三カ月間楽しませてもらいましたw
スタッフの皆様には感謝感激雨あられですw
あとは外伝を楽しみに待っていようと思います
というか、ゴルゴ課長が一番光っていたこのラスト
3期があると考えていいんですよね?
>労馬さん
どもです。最終話含めて『流星の双子』をどう解釈していこうかと思ったんですが、しっくり来るのが紫苑のコピーというか、「夢」だったと。契約者である自分がいなければ、八年前蘇芳が死ぬことはなかったし(蘇芳と紫苑を取り違えたのかも知れないので)、家族三人で幸せに暮らしていたのでは?という夢想の果てに生まれたのが、あのコピー地球だったんじゃないかな、と。自分(契約者)がいる限り、救われない。自分がいなければ、蘇芳は死なずああいう生活を送っていたのでは?的な、彼の悲しい「夢」だったと。第一話で「夢を見られる君がステキだ」といった紫苑がちゃんと夢を見ていたわけですね。
そして、本来の地球では、労馬さんの仰るように、契約者が決して報われない存在として描かれているわけですね。だけど、ゴルゴの「終わったな、何もかも」という絶望の言葉に、未咲が「これからが始まりです」と答える。イザナギとイザナミが出会って、門より出し者(最後のコピーされ、反転した銀<イン>)が現れ、これからも争いが果てないかも知れない。だけど、前期彼女(そして黒<ヘイ>)たちが願った夢はまだ終わっていない。そのための「組織」だと。何気に、前期は黒<ヘイ>と未咲の二人のミクロな選択だったのが、今期では他の人を含めたマクロな選択になっているのがうまいところですね。ちゃんと進んでいる。
という意味では、救われない者たちが救われたくてもがいているのがDarker Than Blackという物語なのかな、と思ってます。だからこそ、蘇芳にも報われないながらも、この世界を生きてほしかったのですが。そこだけはちょっぴり残念ですね。
第三期はどうなんだろうなぁ、世界の結論は出てしまっているので、OVAとか小説とかで、本筋とは関係のないスピンオフものを作ってほしいな、と僕は思ってます。ゴルゴ課長の一日とかw
記憶を無くしたくない、黒<ヘイ>の傍に居たい、という蘇芳の悲痛な願いは届かず、母親やノリオらと和解して、こちらの世界で成長して欲しかった私には、見ていて辛いものがありました。
ただ、紫苑でもある蘇芳を乗せた「方舟」…姉弟がのる船…と考えていくと、一期で黒<ヘイ>と似た能力を持った契約者が、ゲート内での不可思議な空間で子供の姿になり、亡くした筈の妹と共に、童話に出てくるようなロケットに乗って飛び立って行ったエピソードがありましたね。
あれもまた、兄妹の乗る「方舟」であったのだと思います。彼らと紫苑は、それぞれ契約者というしがらみの無い世界に行くことを望んだのでしょう。
そして幾度か、苦難多い今生から解き放たれるための、「方舟」に乗る機会のあった黒<ヘイ>は、それを望まなかった契約者であったのだと解釈しています。
そういう風に考えると、とても美しい終わり方であったのかもしれませんね。
>れおぽんさん
どもです。終わってしまいましたね〜。最初は僕も唖然としてましたが(笑)、何度か見ていく内に腑に落ちたので満足してます。
黒<ヘイ>と似た契約者……、感想にも書きましたが、ニックのことですよね。れおぽんさんが仰っているような解釈を、僕もしてますよ。黒<ヘイ>のIFだったニックと紫苑は同じことを考えていると、腑に落ちますよね。ここまで蘇芳と黒<ヘイ>を重ねて描写してきているので、そのオリジナルである紫苑も当然黒<ヘイ>に似ていて。だからこそ、選んだ答えが前期全25話をかけた黒<ヘイ>の選択とは違っている。その半分で終わった本作、そして、黒<ヘイ>や蘇芳とは違って「仲間」と巡り会えなかった彼。だから、違った答えを出した。
黒<ヘイ>も銀<イン>たちと出会っていなければ、前期十二話で同じような選択をしていたかもしれないですね。そう思うと、『流星の双子』が第12話で終わっている辺りも狙ってやっているんじゃないかなぁ、と思うんですが。凄まじい構成美です。
かもめさん、はじめまして。
Darkerは、独特な世界で1期から大好きでしたが、この2期ほどはモヤモヤさせられなかったように思います(笑 10月から、私も、頭の整理をかもめさんの感想に助けられてきたうちの一人です。お世話になっております。
私の脳内はあまりシンメトリックではないので、ただただあの蘇芳のラストがつらく、見返すこともできずに悲しんでいます。ガキだとかコピーだからとか言ってる間に、最後まで選択の機会がなかったのが、かわいそうでなりません。この3ヶ月蘇芳が何かしら納得する瞬間を見たくて次回を心待ちにしていたのです。コピー地球はたしかに奇抜なアイディアだけど、せっかくの「本物の記憶」を身につけることもできず、「旅が続く」、前に進むといえる状態、かなぁ。
その点ではジュライのほうが見せ場があったと思います。がんばったごほうびをもらえた感じもします。1期から、実は熱いヤツなんだな!と思ってたので、今期ではそれに磨きがかかってたのはうれしいです。ジュライにだって「お前、いい男になるよ!!」といってあげたい。蘇芳よりも、ジュライのほうが経験値もあって自分のことをよくわかってるせいでしょうか。大好きな蘇芳と離れずにすみ、表情がある生活、あの笑顔だからきっと愛する仲間が死ぬ因果な稼業とも無縁な生活、ジュライにとっては最高の環境かもしれません(あのジュライと手繋いでたヒト、ノーベンバーじゃ?!と思わず目を皿のようにしてしまいましたが。)でも、これで記憶なくした蘇芳にフラれたら、人魚姫みたいだな。
もうひとつ、コピー地球が浮かんでた空間は、成層圏から先に行かれないのに、具体的にどこなんだろう?ということから、もしかしてコピー地球は実体なし?と思ったり。それじゃ蘇芳がもっと報われないようでいやですが。
>lalaさん
初めまして。僕も第一期ほどにはすっきりとした感じはなく、放送を見た当初は困惑してしまいました。
lalaさんも仰っているとおり、何よりも蘇芳に選択の機会が与えられなかったのが残念で、黒<ヘイ>への恋が報われなかったとしても、それでも生きるシーンが見たかった。
だけど、その反面で、黒<ヘイ>よりもジュライの方が蘇芳のことをよく見ていたと思うので、最後に蘇芳のそばにいるのが好きなんだと蘇芳を肯定してあげるシーンは、胸に来るものがありました。そういう意味では、蘇芳にほんものの記憶が定着しなかったのは残念ですが、彼女がこの旅をしたことでジュライに変化が起きた。彼女の旅は決して無駄ではなかったんだな、と納得してます。
まあ、本当は僕も、銀<イン>を連れて逃げるであろう黒<ヘイ>さんを蘇芳が追っかける、それがまた新しい旅の始まりみたいな終わり方を期待していたので(笑)、この終わり方は残念で仕方がないです。蘇芳のこともたっぷりと愛着が湧いてきた所だったので、もう少し彼女の旅を見守ってあげたかった。
>でも、これで記憶なくした蘇芳にフラれたら、人魚姫みたいだな。
蘇芳のことをちゃんと見てきた彼のことですから、あっちの世界ではちゃんと結ばれるんじゃないかな、と思いますよ。
契約者はいない世界のはずですからノーベンバー11かどうかは微妙なところですが、そもそもあれはみんなの「夢」なのでやっぱり彼なんじゃないかな、と。
>もしかしてコピー地球は実体なし?と思ったり。
あれが起こったのはゲートの中なので、越えられないはずの成層圏をちゃんと抜けたと思いますよ。彼女が報われるかどうかは多分これからの生き方次第では?と思います。それこそが紫苑の願いだったのではないかと思うので。