「これは傑作だ。戦争をなくすために武力を行使するとはっ……! ソレスタルビーイング、存在自体が矛盾している!」(グラハム・エーカー)

 所属する組織の目的を明かすことで、そこに所属する人達が何を考えているのか隠すというのは面白いですね。「木を隠すなら森の中、動機を隠すなら目的の中」ってことでしょうか。ダブルオーは、ソレスタルビーイングに所属している人達(主にガンダムマイスター達のことですが)、彼らは何者なのか、そういうお話のような気がしました。


 放送から一週間が経っても、未だに頭の中がごちゃごちゃして、上手く表現できるかわかりませんが、とりあえず第一話のポイントを押さえておこうと思います。

 まずはアバン。ここで頻出される「神」というのがひとつキーワードになると思います。ただここで、注意してほしいのは、放送されている声が言う「神」と刹那の言う「神」は同じものを指していないということです。前者はいわば、「統治」する存在としての「神」であり、後者は救いを与える、あるいは安寧を与えてくれる存在、「拠り所」としての「神」です。後者についてはかなり意訳気味ではありますが、これについては「この世界に、神なんていない」という刹那の台詞をかみ砕いていけば、これに近い内容になるかなぁ、と。というのも、刹那は幼少の頃から紛争地域にいて戦い続けているというキャラクターなので、前者の意味での「神」を強く感じることはあっても、後者の「神」を実感することはなかったんじゃないかなぁ、と思うわけです。だからこそ、刹那は天から舞い降りたガンダムに「神」を見た。迫り来るモビルスーツを一掃し、戦争状態を止め、一瞬でも自分に「安寧」を与えてくれたガンダムに「神」を見出した。

 そして、その彼が今ガンダムエクシアに乗っている。
 刹那が何故ガンダムに乗るのか、というのがダブルオーの一つの肝だと僕は思っているのですが、はてさて。アバンから想像すると、自分に安寧を与えてくれた存在に憧れ、自身もそうなりたい(他者に安寧を与えられる存在……、拠り所?)と思ったから、ガンダムに乗っているような気がしますが……。

「神」といえば、もう一つ。「ソレスタルビーイング」の立ち位置も、間違いなく「神」と言えるものだと思います。ダブルオーは地球上から月面までしか開けていない、舞台としては非常にスケールの小さいガンダムですが、このスケールの小ささは「地上VS天上」(人類VS神様みたいな(笑))という構図を浮かび上がらせるものじゃないかと。彼らの母艦プトレマイオスは宇宙(天上)にあり、彼ら自体「天上人」と称されるようですし。また、「武力を戦争で停止する」という目的が語られる中、「人類は試されている、ソレスタルビーイングによって」というティエリアの台詞、「世界が変わっていく」という王留美(ワン・リューミン)の台詞、「始まったよ、人類の変革がね」というアレハンドロ・コーナーの台詞など、いやいや、あんなこと↑言ってるけどソレスタルビーイング真っ黒じゃん!と突っ込みを入れた視聴者も少なくないでしょう。これだけ真っ黒だと逆にミスリード?とも思いますが、アバンの対比(前者が「否」後者が「是」)があるからなぁ。多分そのまんまなのだと思います。ああ、神様気取りというか高みの見物をしている感じのキャラクターの中、小心者らしいスメラギ・李・ノリエガさんだけが救いだ(笑)。地に足がついている感じ。自分たちが大それたことをしている自覚があるっていうだけで、ホッとする(他のプトレマイオスクルーも黒ではないんでしょうが、如何せん、軽すぎる)。

「天上」が怪しげで胡散臭いということを指摘した上で「地上」の動向が気になるところ。OPで描かれているマリナ・イスマイールと刹那の関係も、「地上」で出会うところから始まるんでしょうから、「地上」で展開される物語はかなり重要じゃないかと思います。そう、マリナさんと刹那が出会うのは、断じて、「天上」ではない。だって、マリナさんの国、お金ないし(笑)。おちゃらけてお茶を濁してはいるけれど、この「宇宙」に出られないマリナさんというのが一つ「タメ」のような気がしてわくわく。刹那の「天降り」(ソレスタルビーイングから離脱。「天上人」から「人」へ)と共に期待してみよう。(10/12追記)



 いきなり他作品のお話で申し訳ないんですが、本作の第一話は『機動戦士ガンダムSEED』や『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の第一話とは真逆なんですね。SEEDやDESTINYでは第一話で主人公の立ち位置、彼らが何者で、なぜ戦うことになったのかということを明確に告げます。そのため、視聴者にとっては第一話の段階で既に彼らは「知っている人」になる。

 ですが、本作では組織(ソレスタルビーイング)の目的を明かしただけで、そこに所属している人達が、どんな思いで戦争根絶を目指しているのか、そもそも彼らは何者なのか、という大切な部分を置き去りにします。そのため、僕ら視聴者にとって彼らは「知らない人」になる。

 プレ感想で少し触れましたが、『機動戦士ガンダム00【ダブルオー】』という作品では「知らないことを知ること」に重きを置かれていると僕は思っています。だから、こういう描き方(主人公達が何を考えているのかわからないまま作品を進めること)をするんじゃないだろうか、とは思っていました。そういう描き方を最初にしておいて、徐々に各キャラクターにスポットを当てて、彼らが何者なのかという部分にカタルシスを与える。彼らが何者なのか「知った」時に、僕ら視聴者はカタルシスを得る。そういう描き方も結構面白いんじゃないか、そんな風に“想像”していました。

 ここまで読んでもらえるとわかると思いますが、この手法、ミステリーそのものです。犯人がわからないまま作品が進み、犯人がわかった時にカタルシスを得る。そういう手法が非常に効果的であろうことは皆さんご存知だと思いますが、この手法には致命的な問題点があります。それはミステリー以外でやられると非常に不安で退屈だという点です(笑)。ミステリーだと基本的には解決編が用意されているので、犯人がわからないまま作品が進んでも、その解決編を原動力に読み続けられます。ですが、他のジャンルだと思って読んでいると、そういう欠陥(わからないことがあるままで作品が進むこと)が気になるわけです。「こいつ何考えてるのかわからないままで物語が進んでるんだけど、ホント大丈夫? 作者ミスってんじゃないの?」みたいな状態になるわけです。

 当然、今の段階ではダブルオーがそんな状態に陥るのかわからないわけですが、第一話にしてそういう印象を抱かれた人も、もしかしたらいるんじゃないか、そう思って、これを書いています。いや、まあ白状すると、僕がそのような状態にあるんですね(苦笑)。な、何か、組織の目的は番組放送前から連呼されて刷り込まれているけれど、肝心の主人公達が何考えているのかわからないんだけど? スメラギ・李・ノリエガは何故酒を持って出てきたの?(これは酒を飲んで誤魔化さないとダメなほどスメラギさんが弱い人という表現でしょうが) アレルヤ・ハプティズムは何故突然一人芝居を始めるの? とか疑問は滝のよう。

 で、そういう時はどうするか。
 そういう時はですね……、僕らが「知っている人」達(ミステリーでいえば“探偵役”ですね)が、「知らない人」にスポットを当てるのを気長に待ちましょう。ミステリーの解決編を心待ちにページをめくるミステリー中毒者(ジャンキー)のごとく。

 そんなわけで、僕はこの作品を見る視点キャラクターとして、グラハム・エーカーさんか、マリナ・イスマイールさんをお薦めします(理由は下に続きます)。



「マリナ・イスマイールがメインヒロインだ!」放送前に叫んでいましたが、OPを見る限り別格の扱いを受けているので、安心しました。やっぱり、マリナさんがメインヒロインだ。今回は「戦争を戦争で解決させるだなんて」という麗しい一声だけでしたが、その一声で僕は堕ちました(笑)。たった一言でソレスタルビーイングの矛盾を指摘し、彼女の立ち位置を十分に想像できる。これで、マリナさんは「知っている人」に。

 そして、グラハム・エーカーさん。
 僕ら視聴者と同時に「ガンダムエクシア」を目撃した文句なしの同胞。そして、マリナさん同様いち早くソレスタルビーイングの矛盾を指摘した人。あとはユニオンのエースパイロット。ユーモアもある(「失礼だ、と言ったんだ」「それは、あのガンダムとやらのパイロットに聞いてくれ」という台詞から)。そして、何より、今回はほとんど彼視点で、エクシアの行動の目的を解説したりで、視聴者の中で十分に「知っている人」に昇華されていると思います。

 本作を楽しもうとするには、何者かわかっていない現段階のソレスタルビーイングに感情移入するよりも、地上の人達に感情移入して、彼ら(彼女ら)と共に、ソレスタルビーイングとは何者なのか、という視点で追っていった方が良いんじゃないかと思います。僕はそういう視点で見ていこうかな、と思ってます(グラハムさんとマリナさん、両方好きなのでイイ感じです)。



 ソレスタルビーイングの在り方の矛盾については、どういう決着を付けるのかわかりませんが、冒頭の「この世界に、神なんていない」という刹那・F・セイエイの言葉が返ってきそうな気はします。僕はマリナ・イスマイールさんがメインヒロインだと宣言した時に、彼らの立ち位置について言いたいことを言ってますが、作中ではパトリック・コーラサワーに期待。彼なら「このスペシャルな俺を見下ろすな! 神様気取りか貴様らはっ!」とか平気で言ってくれそう(笑)。

 次回も楽しみ。

機動戦士ガンダム00 (1)


DAYBREAK’S BELL







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