「でも、存在しないわけじゃない。キスもできる、手も握れる、君は確かにここにいるの」(四方茉莉)
「ちゃんといるよね、ここに。幽霊じゃない。手も握れるし、影もちゃんとある」(石月真名)
第十話では茉莉が、第十一話では真名が、同じようなことを依人に対して言うけれど、二つの台詞の間にある齟齬が、ただ切なかった。
◇
辻堂剛史の謎の剣によって、今の依人が蒼乃さんに作られた紙人形だと明かされた第十話「ユレルマボロシ」(これからは、便宜的に今の依人をヨリト、昔の依人を依人と書きますので、よろしく)。
第十話の見所というのは、真実を知り、ある種のアイデンティティ・ロスト状態に陥ったヨリトが、茉莉にアイデンティファイ(再定義)されるところだと思うんですが、彼女のこの行為がヨリトにとって救済になり得たかというと、僕的にはかなり疑問。
茉莉はヨリトを一つのパーソナリティとして認めているけれど、「依人はただ一人。あの時死んだ一人だけ」と言っているように、ヨリトのことを依人だとは思っていない。
だから、茉莉が定義したのはあくまでヨリトであって、依人ではない。
でも、ヨリトが認めてほしかったのは「依人との関係」のように思うんですよ。自分は何者でもないと口にするけれど、「依人って、どんなやつだったんだ? やっぱり俺と同じような性格だったのか、姉さんとも」と茉莉に聞いてもいる。
それは、蒼乃さんの隣に居ても良い依人として、ヨリトは認めてほしかったからじゃないかと思うわけです。
しかし、茉莉は「忘れた。もう昔のことだもん。私が覚えているのは君だけ」と言って、ヨリトを認めるだけ。もちろん、ヨリトと依人には大きな距たりがあるんでしょうが、忘れたというのは嘘だし、第十三話「ソラ」ではやっぱりヨリトは依人なんだとひっくり返るシーンがあるので、彼女の主張はなんとなく恣意的。
心を知ったあとに、あまりに独りでいる時間が長すぎて、その間に芽生えてしまった「早くラクになりたい、死にたい」という彼女の本音(これもある意味”心”)が見え隠れしているような。でも、一人ではそこまで踏み切れないし……と、その心中相手として選ばれたのが、ヨリトのような。
でも、ヨリトには同情しない。
第十二話、第十三話でやっぱり生きることに執着を見せる茉莉を、生きる方に傾けさせられなかったのは、ヨリトだから。ADV風に言うなら、彼女の好感度をそこまであげることができなかったのだ。だから、彼らにとって、バッドエンドになったとしても、それは致し方ない。
だから……、、あとは僕らに託してくれませんか。
茉莉さんの好感度も、蒼乃さんの好感度も、ちゃんとあげて、伏線も全部拾って、茉莉さんにも蒼乃さんにも両手一杯の空を見せる、そんなグランドフィナーレに持っていきますから。ええ、つまり、ゲーム化してくださいね、sola(そこはかとなく他人任せだな、おい(笑))。
思いっきり、脱線してしまいました。
まとめに入りますと、第十話で、茉莉によってヨリトではあるけれど依人ではないと定義されたことが、第十一話「ムソウレンガ」の冒頭――
「戻そう……、姉さんを。すべてをありのままに」
という答えに繋がっていきます。
蒼乃さんの隣に居て良いのは依人だから、という結論に。
理由はわかるけれど、やっぱり切ないですね、こういうの。やるせないです。
◇
で、二つの類似された台詞のお話。
どちらの台詞にも、共通している含意は、「手を握れる」、つまり、ちゃんと存在している、ってトコロだと思うんですが、問題は茉莉にとっての「君」と真名にとっての「あなた」が誰かということじゃないか、と思うんです。
茉莉の「君」は上述しているとおり、依人ではないヨリト。
真名は例の台詞を言うまえに、「依人だよね……? 森宮依人だよね?」と依人に確認を取ろうとしますが、依人はそれに答えない。理由はもちろん自分は依人じゃないから。
依人という呼びかけに答えないヨリトに呼応するように、いつもの「依人」という呼び方から「あなた」へと変えて、
「明日の朝も迎えに行くから。こよりと私と三人と学校に行って。授業中もあなたはここで空ばかり見上げて、先生に怒られて、チャイムが鳴ったら真っ先にカメラを持って、屋上へ走って、私はそんなあなたをあきれ顔で呼びに行く」
と涙ながらに語るシーンが、切なくてたまらない。でも、
「忘れるはずない、そんなの! 忘れるはずないよ! 依人がどんなに願っても、望んでも、私忘れないから。絶対、忘れないから。私は……」
と、やっぱりあなたは依人なの! と真名は叫ぶんですが、それは彼には届かなくて……、ああ、切ない(理由としては、すでに茉莉によってヨリトとアイデンティファイされているからだと認識)。
何はともあれ、結局、「あなた」は間違いなく”依人”なわけです。空が大好きな”依人”なわけです。今までのルールに従うなら、あるいはヨリトと書くべきかもしれないですが、やはり、ここは”依人”と書きたい。
言葉遊びが過ぎますけれど、真の名が指す名前なんですから、それが本当の名前なんでしょう。第十二話、十三話の感想では、”依人”へと収束していこうと思っているので、これだけは勘弁してください。ちょっとだけフライング(笑)。
ようは、茉莉の「君」も真名の「あなた」も同じヨリトを指しているようで、ちょっと違うんじゃないかと思うわけです。第十一話「ムソウレンガ」の冒頭で、「天井の空」をヨリトが剥がすのは、空を追いかけていたのは依人であって、自分ではないから、という感じですが、真名の「あなた」はそれを否定するわけです。「あなた」は空ばかり見上げていた、と。では、「君」はどうかと……。
で、結局、「空」を足掛かりにヨリトと依人が同定される、第十二話、第十三話に感想は続きます。
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↑こっちのドラマCDの方は感想を書きます。序盤のようなホワホワした雰囲気だと良いんだけど、どんなお話だろー。