「顔や言葉に出せなくたって、あの子心の中じゃ泣いてんだ! わかるか? 人形扱いして良い人間なんざ、この世のどこにもいねぇんだ!!」(久良沢凱)

 前回の感想で、長々と「人間扱い」することについて語りましたが、それがまさか松吉の台詞で肯定されるとは思わなかった(笑)。キコも凱も、良い感じでレギュラーキャラっぽくなったので、これからも登場しては、事態を引っ掻きまわして、重要なことをさらりと言っていくんじゃないかなぁ。


 まだ上手く言葉で纏められないんですが、「”心”を持った人間として相手と接する」ことから派生させた何かが、『Darker Than Black−黒の契約者−』のテーマなんじゃないかなぁ、と思いながら、見ています。

 登場人物で言えば、黒<ヘイ>という――ドールにも人間にも優しく接するのに、契約者に対しては嫌悪感を露わにして接する――男が、如何に契約者との関係を変えていくのか……、そういう所が見所なんじゃないかなぁ、と。
 ドールとの関係は、第2話で、

「人形じゃない……生きていたんだ」

 と言っているので、今とあまり変わりませんね。

 思えば、黒<ヘイ>が任務の先々で女性を魅了しモテモテなのも、彼女たちを任務達成の道具としてではなく、人として扱ってきたから……なんでしょうね。そう考えると、黒<ヘイ>のモテモテな設定も、深いなぁと思えてくるから困ります(笑)。



 で、今回のエピソードなんですが、あまりに美しくて、僕は一体何を書けば良いんでしょうか。今回は本気で感想を書くのやめようかなぁ、と思うぐらい、感想を書くのが野暮な感じがします。

 でも、書く!
 
 ……と、その前に。

 ベルタさん、ごめんなさい!
 前回の感想で、テキトーに対価の解説をしてしまって、本当に申し訳ない。まさかそんな事情があろうとは露とも知らず、勝手気儘にテキトーなことを……、本当にすみませんでした。反省。

 しかし、対価の解説をするとは思いませんでしたよ。ぼかしたまま、とりあえずわかる人はわかればいいよ、みたいなスタンスだと思っていたから。
 ベルタさんの子供の話で、対価というのはある種「罪の象徴」でもあるということが明かされたわけですが、それよりもイツァークが問うた「人間だった時の癖ってやつか」の方に注目したいトコロ。本当に、対価って、人間だった頃を求める行為だったんだなぁ。



 イツァークさんは、人間だった頃、人一倍ロマンティストだったんだろうなぁ。そうでなければ、「月の失われた今は、永遠の贖罪の期間というわけか」なんてさらりと言えませんよね。詩を書いたことはないと言ってましたが、書こうとしたことはありそう。……で、上手く書けなくて、書いたことがない、と(笑)。
 でも、彼の残した二つの詩、良いと思うけどなー。

 乙女 白き夜 湖水に臨み 一人淡き帳に沈む
 寄り添うは ただ虚ろに凍てた銀色の月


 乙女 黒き夜 悲しみを弔い 一人深き帳に沈む
 されど 寄り添う月は白銀に満ち あがないの夜は静かに去り


 二つの似通った詩ですが、この乙女というのは、一つ目は銀<イン>で、二つ目はベルタのことを指しているんでしょうね。
 煙草を喉に詰まらせて死んでしまったベルタの子供。悲しみに暮れたベルタは、煙草を食べて吐き出すという対価を選び、贖いとした。されど、ここにそのあがないの夜は去り……と。

 でも、この詩で凄いのは、イツァークさん的にはベルタさんのことを詠っているのに、僕ら視聴者から見れば、ばっちり銀<イン>のことも詠っていて、ベルタさんにも銀<イン>にも救いを与えていることですね。イツァークさん、格好良い。というか、ここで退場するには、惜しすぎるキャラクターでしたね。イツァークさんもベルタさんも。

 まあ、詩自体には不満があったりするわけですが。
 というのも、語りすぎですよね、あの詩。もう少し余韻を残す、想像させる余地を残す詩にできたんじゃないかなーと思うんですよ。「寄り添う月は白銀に満ち」という部分を除いてしまえば、それだけで良いと思います。というか、この部分は書いちゃダメだろー、って叫んでましたよ。
 だから、

 乙女 黒き夜 悲しみを弔い 一人深き帳に沈む
 されど あがないの夜は静かに去り 寄り添うは……


 という形にしておけば、寄り添うのは何? と僕らは考えられたわけです。

 ベルタとイツァークが交わした「月蝕は贖罪(あがない)の象徴」という会話から、あがないの夜=月蝕で、月蝕のあとに残るのは月だと。ゆえに寄り添うのは「白銀に満ちた月」とか。
 あるいは、ひとつ目の詩と対比させて考えてみると、あがないの夜はそのまま夜で、夜が明けたあとに現れるのは太陽。だから、えっと、「赤光に満ちる金色の太陽」とか。語呂が悪いし、赤なのに金とは、これ如何に(笑)。

 まあ、「しろがね」というのは「白銀」とも「白金」とも書くので、どちらも表現しようとして、こういう形にしたんだろうなぁ、と想像してみたり。



 言葉の機微関連でもう一つ。
 銀<イン>が逃げた理由、

「心が動くと思ったから」

 のトコロ。この言葉の使い方は、すごく上手いと思いました。「心」関係の言葉は、おそらく推敲に推敲を重ね、入念に練られていると思うので、色々考え甲斐があります。楽しい。

 心が「戻る」わけでも、「見つかる」わけでもなく、「動く」、と。つまり、心は動いていないだけで、そこにある、なくなったわけじゃないという示唆ですよね、これ。
 そして、「動く」というのが、また微妙な表現で。例えば、ベルタが振動の話をしていましたね。どんなものでも振動していると。でも、どう見ても、自分の机だったり、家が振動しているようには見えない。
 その理由は実はこれこれこうで云々と説明できれば良いんですが、あいにく僕にはさっぱりわからない。だから、観測できないほど微々たる振動だからと納得しておきましょう。

 銀<イン>の「心」の変化もそういうことじゃないかなぁ、と思うんですね。
 今回、銀<イン>の心は非常に揺れ動いているように、あなたは感じましたよね?(僕も感じました) でも、彼女にとって、そうではなかった。上記の「心が動くと思ったから」というのは、でも、動かなかったと続く文脈だし、「哀しい、哀しくないのが」と揺れない自分の心を哀しく感じたりと……、今回の逃避行をもってしても、銀<イン>にとっては心は動かなかった(最後はもちろん別ですよ)。

 でも、あなたには十分変化しているように見える

 それは、今回銀<イン>が見せた心の動きが、彼女にとって、取るに足らない、微々たるもの、つまり、「当たり前」のことだったからなんじゃないかなと。さっきのベルタの話を思い出すとわかりやすいかなぁ。ようは、彼女の心はずっと振動していたけれど、周りはその振動に気づかなかった、止まっているように見えた、と。ただそれだけ。
 だから、これぐらいの変化は、彼女にとっては「当たり前」で、求めているのはそれ以上の動きをさせてくれる何か。
 で、それ以上の動きをもたらしてくれたのが、黒<ヘイ>の仲間を肯定する言葉や、イツァークが解放した観測霊の姿(=月の光)、そして、彼の詩だった、と(この一文は蛇足ですね(苦笑))。



 今回のピアノ曲も良いですが、「Darker Than Black−黒の契約者−」は本当に良い曲を鳴らしますよね。戦闘が始まる時に鳴る曲がかなり好きだったりします。
 サントラは、随分前に予約して、発売を今か今かと待ちわびています……って、ジャケット、猫<マオ>かよ!(笑) と、最後にお茶を濁して、本日の感想はお終い。
 ああ、そういえば、7月9日から一週間第1話から12話が無料配信されます。見逃した人は、是非、この機会に。僕ももう一度見てみるつもりです。改めて感想なんて書かれましたら、是非トラックバックしてくださいね。

DARKER THAN BLACK-黒の契約者- 劇伴

DARKER THAN BLACK-黒の契約者- 1 (通常版)





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