「わたしがわたしでいるため」(アスナ)

 アニメ『SAO』第二話「ビーター」のネタバレ感想です。まだ文庫化されていない(今度発売されるプログレッシブ第一巻収録)「星なき夜のアリア」が原作のエピソードですね。この世界から逃げようと闘争(逃走)しているアスナが、この世界で生きているキリトと交わることで、生き始めるお話。


「たとえ怪物に負けて死んでも、このゲーム、この世界には負けたくない。どうしても」(アスナ)

 原作小説だと、アスナ視点で描かれることもあって、この辺りの心境がよくわかるんですが、アニメだとどうしてもわかりにくくなってしまいますね。

 ようは、こんな「偽物」の世界に負けたくない、ということ。

 始まりの町で待っている者達のように腐っていくのは嫌だと言っても、その心の在り方は彼らとあまり変わらない。彼女を動かす原動力は、この偽物の世界から「逃げたい」ということに他ならない。

 アスナにとって、この世界はやはり「ほんもの」ではない、ということ。

 ゆえに、キリトが「美味しい」と言ったパンに対して、彼女は「本気?」と問うわけです。こんな偽物、デジタルの信号が脳に与えているだけのものを「美味しい」なんて、本気で言ってるの? と。

 だけど、クリームで加工されたパンをむしゃむしゃと、美味しそうに食べてしまう。原作小説だと、これにプラスしてお風呂エピソードが描かれるので、彼女がこの世界で生きていく、現実世界と変わらず生活していくことを覚えていく話でもあるんですよ。

#アニメ版では、次回の「赤鼻のトナカイ」へと繋げていくために、キリトの孤独さに焦点を当ててますが。

 だから、最後にアスナは当たり前のように笑うんですね。キリトの名前を知ったという――気になる男の子の名前を知ったという――それだけのことで、「笑顔」になることができる。

 戦う理由は「わたしがわたしでいるため」と断言した少女が、ソロプレイでしか生きられなくなってしまった少年のことを気にかける。そんなことが、当たり前のようにできてしまえる。

 そんな偽物の世界で逃避していたアスナが、ほんもののように生き始めたのに対して、次回のキリトは、このソードアート・オンラインの世界を真実ほんものだとしているからこそ「逃避」してしまう。エピソードのスイッチ具合がとても良い。

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