アニメ『SAO』第一話『剣の世界』のネタバレ感想です。ヒロインがどなたかというようなネタバレを若干含みますが、文庫版第一巻の感想を読んでいただければ、物語の構造、何を描こうとしているのかがよくわかるようになると思います。
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「生き延びてみせる、この世界で」(キリト)
ログイン前に指を切って血が流れたときは何も感じていなかったのに、茅場晶彦のチュートリアル後の無傷な手を見て、「死」を直観させる流れが見事だった。
この、あまりに「死」というものを感じさせない、当たり前のように「明日」がやってくると思えてしまう現代において、いかにして読者や登場人物に「死」を可視化させるのかというのが難題になってくるのですが(当たり前ですが、死の不穏さが存在しなければ、生の輝きなど得られない)、「アバターのHPがゼロになればそのプレイヤーも死ぬ」という茅場晶彦の一言で、それを適えてしまう。
HPがゼロになれば死。
これによって、「いま、ここ」に生きている有限な存在としての「自分」が可視化されるわけです。ゲームの中に、HPという数字によって、自分の命が可視化される。自分という存在はいつか死ぬし、生きられる時間は限られているという至極当たり前の普通のことを、普段は忘れていることを(それはSAOの登場人物だけじゃなくて、ぼくらもおなじ)、キリトが思い出した瞬間。
その瞬間に、彼は「この世界で生きる」という覚悟を決められるのが格好良い。彼が決意したのは、あくまで「この仮想世界で生き延びる」ということ。決して、その仮想世界を否定し、現実世界に戻ることを決意したわけではないことがポイントです。なにせ、クラインに進言したのは、この世界で生き延びるための強化方法ですからね。
もとより、茅場晶彦によって死が可視化されていなかったとしても、彼にとっては、このデジタルな仮想世界は現実たり得ていた。それはログイン時の、
「戻ってきた、この世界に」(キリト)
という台詞や、
「この世界は、こいつ一本でどこまで行けるんだ。仮想空間なのにさ、現実世界より“生きてる”って感じがする」(キリト)
という言葉からも明らかです。たとえ、デジタルな仮想世界での出来事であったとしても、そこに全力でコミットしている限りは、真実「現実」たり得るんだという強いメッセージを感じます。
そして、そのデジタルな仮想世界が、プレイヤーがゲームにコミットすることで初めて「現実」たり得ていた世界が、否応なくして、HPがゼロになれば死ぬという「現実」へと引きずられた中で、彼らは生きていく。その生き様に注視していきたいと思います。これほどまでに、「生きている」ことを感じさせ、「人を好きになる」ということを素敵に感じさせる作品も少ないので、ぜひじっくりと楽しみにながら、見ていただきたいです。

ソードアート・オンライン〈1〉アインクラッド (電撃文庫)

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