「きっと十年後、この毎日のことを惜しまない」(折木供恵)

 アニメ『氷菓』第三話「事情ある古典部の末裔」のネタバレ感想です。


「時効ってことさ」(折木奉太郎)

 今回物語のエッセンスとして、明確に打ち出してきたのは、時間には制限がある、ということ。千反田さんの伯父が失踪し、行方不明者は七年で死亡するという法的手続や、覚えていてはならないという四十五年前の出来事に対して、奉太郎が言った「時効」という言葉からも、それが窺えます。

 当たり前と言えば、当たり前だけれど、どれだけ今が輝かしい日々だとしても、それはいずれ色褪せていく。いつまでも輝き続けるものなんて存在しないという諦観。京都アニメーションが前回手掛けた『けいおん!』とは明らかに真逆のテーマをもって(こちらは唯たちの築いた「輝き」をこれからも継続していこうという締め)、進められるのが本作『氷菓』。

 ある意味で、折木奉太郎という少年が、省エネ主義というものを貫く背景には、そうしたいずれ輝きが薄れていく日々に対して、全力全開で挑むよりは、少しでもエネルギー消費を押さえて、そのギャップを抑えたいという気持ちがあるんじゃないかと。いまがあまりに輝いてしまっていたら、いずれその光が弱まったときにあまりに切ない。

 だけど、さりとて、千反田さんのように、いずれ終わってしまう「いま」を精一杯生きている人を無視できるほど、彼は自分のモットーに忠実ではない(彼が忠実あるいは真摯なのは、むしろ自分ではなく、他者の方)。幼い千反田さんが懸命に穴を掘る――もちろん、彼女ができる精一杯の力でもって、関谷純の真実を探る姿の暗喩――シーンは、本当に絶妙。

 元々、奉太郎は自身が省エネ主義であるからこそ、千反田さんの人生観に関わるような今回の出来事には、手を貸さないつもりだった。だけど、これまで散々その彼のスタイルが揺さぶられてきたわけで、ここに決定的な「矛盾」をさらけ出すことになるわけです。省エネ主義を貫くならば、以前里志が言っていたように、断らなければいけないし、千反田さんに手を貸すというなら、ちゃんと手を貸さないといけない。けれど、彼の選んだのは、とても中途半端なものだった(これまた、条件=制限付き合意というのが皮肉)。

 そんな彼の心境をストレートに映し出すのが、次回描かれる彼の推理ですね。これまで印象的に描かれてきた、世界と彼自身との関わりの齟齬が解消されることもなく、より歪なまま進んでしまった結果としての推理とはいかなるものか。

 奉太郎や千反田さんがそれぞれに青春らしい葛藤(ある意味二人とも己の実存についての問答)をもって、いまを生きている中、奉太郎の姉供恵は一人世界を股にかけている辺りが熱い。これも、ただ単純に、ミクロな世界ではなく、マクロな世界で供恵が生きている、世界に飛び出してバリバリやってる、というだけのものではないんですが、この辺はまだ上手くぼくも説明できないところなので割愛。それでもただ一言響いてくるのは、この言葉。

「きっと十年後、この毎日のことを惜しまない」(折木供恵)

 それは、たとえこの毎日が色褪せ、輝きを失ってしまったとしても、決して惜しまないという覚悟の言葉のように思えます。

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まどろみの約束
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