ちきりんさんの『自分のアタマで考えよう 知識に騙されない思考の技術』の感想/書評となります。これだけ具体的に、思考の方法が語られている本もなかなかないのでは、と思います。超おすすめ。あとでメモしながら、読み直そうかと。ここでは、読み進める上で、さらっと注意すべき点だけ指摘しておきます。結構有名というか、まあそりゃあそうだよね、というミもフタもない話なので、知ってる人も多いかとは思いますが、一応。


 ようは、「インテリジェンス活動」について、非常に簡素な言葉で語られているのが、この本だと思います。「intelligence」という英単語を調べれば、訳として「情報」「諜報」という言葉が出てくるかとは思いますが、この場合は「情報処理」辺りが近いんじゃないかと。

 インテリジェンスとは何か - Togetter

 このまとめの三つ目で言われている、「情報の収集・分析・活用等の一連のプロセス」が、そのものずばりという感じですね。もう少し、言葉を補うなら、特定の目的や利益に合わせて、情報(これがいわゆるinformation)を収集、分析して、処理するというのが、インテリジェンス活動だと思います。何故そんな処理をするのかといえば、ちきりんさんも本書で触れていましたが、「未来を予測する」ためでしょうか。

 そして、この特定の目的や利益というのが、本書第一章で語られている「意思決定プロセス」と重ねて良いと思います。特定の「意思決定プロセス」に合わせて、情報を収集し(インプット)、結論を出す(アウトプット)というのが、ここで語られている「考える」「思考」という言葉の意味だと捉えました。

「考えること」「思考」とは、インプットである情報をアウトプットである結論に変換するプロセスを指します。(P34)

 ここで注意してほしいのは、その「思考」はどうやったところで、その「意思決定プロセス」に引っ張られる、影響を受けるということです。もっと直裁に言えば、アウトプットの質は意思決定プロセスの質にほぼ依存します。例として挙げられた、

「我が社がこの事業に進出すべきかどうかは、日本国内の状況のみで判断すべきだ。海外はかなり前提条件が違っているので、現時点での意思決定には入れ込むべきではない」(P30)

 この「意思決定プロセス」が妥当ならば、それこそそれによって得られる思考もそれ相応の質を有するとは思いますが、これがもし仮にものすごく「的外れ」だとしたら、どれほど質の高い情報収集をしたところで、出てくる結論はどうしようもないものにしかならない。ようは、意思決定者の能力にものすごく依存しているんですね。それこそ、どれだけ有能な部下がいたとしても、意思決定をするリーダーが無能ならば、その組織は当然ぐだぐだになっていくように。

 これは、折に触れて、森博嗣という作家が、「優れた答えを出すことが重要なのではなく、優れた問題を発見することの方が遙かに重要だ」だと語っているのと同じことだと、ぼくは考えています。本書でも語られているように、本当に重要なのはこの「意思決定プロセス」。

 当然この「意思決定プロセス」も、別の「思考」から導き出されているものでしょうから、この「意思決定プロセス→思考プロセス→結論」という思考サイクルは繰り返し繰り返し行われているのですが、ではどこでやめるのか? というのも、実は答えが出ない難しい問題だと思います。どっかで、やめーたと「決断」しなければならない。どこかで思考を止めなければならない。これをどうするのか、という問題。

 そして、意思決定者の能力に依存することに近い部分ですが、その人がちゃんと本当に問題を把握しているのかわからないというものです。会社で何かやらなければいけないということなら、問題は把握しやすいですが、個人で何か情報処理をしようと思ったとき、どこまで本質的に問題を捉えているかによって、その後の「思考」が変わっていく。

 ぼくがよくミステリー小説の「名探偵」を批判するのは、彼らが表層の事件のみを解決して、被害者たちの本質的な問題は何も解決しない(むしろ暴露して、爆弾化して去っていく(笑))からですが、そうした人にはやはりできるだけなりたくないですよね。問題解決のスペシャリストよりは、問題発見のスペシャリストでありたい。

 本書を最後まで読めば、おそらくそうした問題発見の技法、もとい「意思決定プロセス」の重要さについて語られているのがわかると思います。少なくとも、ぼくはそのように読みました。ラストの「思考の棚」の例などは、そもそも情報に対したとき、すでに考え終わっていて、考えてませんもんね。

 そんなわけで、ある意味で情報に対するとき、本当は考えてはいけない。そのときには、すでに思考を終えている必要があって、そして、それは先のように挙げた問題を抱えているから絶対ではない。だから、ずっと考えていかなきゃいけないんだなぁ(ぼくは森博嗣の大ファンなので、むしろ「問う」という言葉を使いたいですが)。しんどいなー。

自分のアタマで考えよう
自分のアタマで考えよう
すべてがEになる―I Say Essay Everyday (幻冬舎文庫)
すべてがEになる―I Say Essay Everyday (幻冬舎文庫)