まず注意として。

 今何かと世間を賑わせている「ステルスマーケティング」ですが、この記事ではそれの善悪について何かを言うことを目的としていません。というのも、今のところ、それについて決断したり行動しなきゃいけない状況には置かれていないので。気にしてちょくちょくといろんな記事を読んではいますが、態度としては保留している感じです。

 詳細については各自調べてもらえば良いと思うんですが、あえて今回僕が記事にしたのは、この流れを見ている最中にちょっと気になることがあったから。

 今回の騒動のきっかけになったのは、『化物語』や『魔法少女まどか☆マギカ』を製作していたシャフトの公式HP。ここにあるまとめブログとの関係性を示唆するような出来事があり、結果そのブログが絶賛していたそれらの作品はステルスマーケティングによるものだったのでは? と指摘されたのが、最初の方の流れだと認識しています。

 ようは、作品が必要以上に、過剰に評価されたのではないか、という懸念が起こった。

 そして、世間の盛り上がりに対して、そこまでその作品群に乗れなかった人が、「ステマだから」という理由に少なからず納得したというコメントがあったんですね。そういう書き込みを見かけて、それが悪いことであるとかやってはいけないことだとかという以上に、「もったいない」と感じたのが、この記事を書こうと思った理由です。



 一見もっともらしい、この理由を見出してしまったことによって、こうした納得をした人は、きっともうこれらの作品を心底面白く感じることはないんだろうな、という寂寥感。一人の物語を愉しむ人間としては、やっぱり、「もったいない」と思ってしまいます。

 別に面白いとかつまらないとか、瞬間瞬間で判断していくのは、悪いことだとは思いませんし、むしろ自然なことでしょう。でも、それらの判断の根拠を、自分ではなく、まわりに求めてしまったら、その作品を面白がれる可能性を失ってしまうのではないか、と思います。

 だから、せめて態度を保留することができたら、と。急いで、結論を出す必要などないのだと言いたい。そのとき、面白く感じるならそれで良い、つまらなく感じるのならそれも良い。だけど、その理由をそう簡単に掴んだ気にはならないでほしい。それは、きっとそこいらの道ばたに落ちてるものじゃない。

「世間ではものすごく盛り上がっていたけれど、自分はなんだか乗れなかったな。何故だろう? まわりの人が面白がれたのは何故か? 自分がつまらなく感じたのは何故だろうか」

 そうした「問い」を頭の中に、宙ぶらりんのまま、放置できる「勇気」を。実際に、態度を「保留」することには勇気がいるし、労力もかかる。なぜなら、やはり人は白黒つけたい生き物だし、もし態度が翻ってしまったらそれまでの自分(時には、まわりの人も)を裏切ることになる。そして、いつも頭の片隅に置いているのだから、そりゃあもう邪魔だろう。バニーちゃん(僕の頭の中には、最近ずっとバーナビーと虎徹がいる(笑))。

 でも、そうした「余地」をどこかに残しておく。

 それができたなら、きっとそれを埋めてくれる「出会い」があるから。それは人との出会いかもしれないし、本との出会いかもしれない。あるいは風景との出会いかもしれないし、音との出会いかもしれない。僕の場合は、そのときは、「人」だった。

 僕は昔『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』がつまらなくてつまらなくて仕方がなかった。いろんな掲示板を巡って、そのつまらなさ加減を確信しつつあった頃(当然ながら否定的な感想ばかり抽出していた)、一人の人の感想に出会った。その感想を読んで、文字通り世界がひっくり返った。最高につまらなく思えた作品が、最高に面白く感じられた(だから、今の自分にとっては、初ガンダムであるSEED以上に、DESTINYの方が重要だし、好きだ)。本当に、素晴らしい「書き手」(クリエイター、創作者、なんでもいい)というのは、きっと人を極から極へと移動させられる、世界をひっくり返すことができる人間だと思う。

 こういう「出会い」は、きっと誰もが大なり小なり経験していることだと思うし、実際に起こる程度の、日常にありふれたものだ。だけど、どこかに何かが、誰かが入り込む余地がなければ、きっと叶わない。

 だから、少しでもいいから、態度を保留できる勇気を。
 判断を放り投げる勇気を(もちろん、それが必要なときは、放り投げてはダメですよ(笑))。

 良いじゃないか、別に。まさか自分の判断力や受容力が完成されていると、心の底から信じられるわけでもない(いや、まったくもう少し何とかならないものかと感じない日はない)。何かの拍子にかちっとハマるかもしれないし、逆に今まで最高に面白く感じられた作品が最高につまらなく感じる出会いがあるかもしれない。最高の作品が、陳腐に感じられる作品と出会えるかもしれない。

 そうした「変化」がある方が楽しくないですか?

 そんなわけで、僕はいまだに『魔法少女まどか☆マギカ』を心底面白がれる日を諦めていないし、今はいかに『ガンダムAGE』を愉しむのかを問うていたりします。ただ、ちょっと後者に関しては、匙を投げか、ごほっ、ごほっ、えっと、誰かAGEを面白く見られる地平をお持ちの方は、ご連絡ください。心よりお待ちしております。切実に。