「目を開けて世界を見ろ。人が関わる物で人の思惑が絡まない物はない」(バートン)

 支倉凍砂先生がシナリオを務める、同人ゲーム『ワールド・エンド・エコノミカ(WEE)』第一部(→公式HP)のネタバレ感想です(『狼と香辛料』の最終巻付近のネタバレがありますので、ご注意ください)。プレイ時間は六時間程度なんですが、とにかく物語の起伏が素晴らしくて、ぐいぐい読まされました。ハルの投資シーンなどは下手なバトルものよりも遙かに高揚してしまいましたよ。そして、ラストは燃え尽きた。


 支倉砂先生といえば、やはり『狼と香辛料』抜きでは語れないと思っているんですが、このWEEは間違いなくあの物語の延長にあるものだと思いました(こちらが支倉先生初体験の方は、ぜひ『狼と香辛料』の方も読んでみてください)。

 元々『狼と香辛料』という作品は、近代ヨーロッパ辺りをモデルにした世界観を持っていた。中世から近代にかけて、徐々に神様に対する信仰が薄れていく中で、その先端にいる行商人ロレンスと、人々に忘れ去られた麦穂の神ホロが出会い、なんやかんやといって、ホロが再び人の世界へと交じっていくまでを描いた物語です。

 メインストリームから弾き出されてしまった少女という意味では、本作のハガナとホロは似たような立ち位置にあって(ハルとバートンを除けば、理沙さん含め、主要人物はほぼ弾かれている)。だからこそ、ロレンスと同様、ハルことヨシハルが彼女をメインストリームへ連れていく(それが、彼女に投資を手伝ってもらう箇所になりますね)のかと思ったら、最終的にメインストリームから弾き出されてしまったのはハルだったというサプライズ。

 あの最高の盛り上がりから、一転直下で叩き落としてきた興奮は忘れられない。『狼と香辛料』にて、最終的な結末としては人との縁とか絆、繋がりを大切にして、一つの場所へ落ち着くことを選んだのがロレンスたちでしたが、そうした人との縁を信じすぎたあまりに、ハガナのデータを信用できずに、裏切られてしまったのがハルだった。いや、裏切られたというよりは、思考を止めてしまった。

 バートンははじめから「人が関わる物で人の思惑が絡まない」ものはないと言い、「未来は自分の手で掴め」と言っているにも関わらず、ハルは自身では何も考えず、彼の情報を信じてしまった。それは、例えば、自身では何も思考せず、神はいないと嘯く輩のようであり、獣の神様とつがいになることを真剣に考え、選んだ男とは正反対の在り方。

 誰がどう見たって、ロレンスとホロのように、お互いが精一杯やれることをやりきった上で敗北した投資コンテストでのハルとハガナの在り方が作中解。この物語が辿り着くべき場所。だけど、一度は期せずして到達してしまったがゆえに、これ以降の物語で辿り着くのがものすごく難しくなってしまった場所でもあるんですね。

 ラストのハルの態度は、それまでのハガナとの関係を否定するものであり、かつハガナの金融工学的な在り方を肯定するものだった。ちょっと記憶に自信がない部分ではあるんですが、この世界ではリーマンショックが起こっておらず、金融工学がそこまで発展していない世界なのかな、と思っています。で、おそらくミスター・トローチとハガナを中心に、この後金融工学が発展していくんだと思いますが、それが行きすぎると、リーマンショック時のような信用の大消失に繋がっていくので、第二部のラストはこの辺りを扱うんじゃないかなぁ、と。

 インタビューによれば、「最後は大団円にします」ということなので、その言葉を信じるならば、まあ、第二部も盛大にぶっ放すだろうな(笑)、と思うわけです。第一部のミクロな関係性に亀裂を与えてしまったのに対して、マクロに被害が広がっていく。

4Gamer.net ― 支倉凍砂氏ロングインタビュー。「WORLD END ECONOMiCA」から「狼と香辛料」,そして次回作の話題まで,あれもこれも語りつくしてもらった

 ハルのように、人や雰囲気を重視しすぎてもダメ、ハガナのように数字を重視しすぎてもダメ。作中の表現から言えば、ハルは雰囲気という「今」を重要視しているのに対して、ハガナは過去の数式をひたすら検算するという在り方だった。そんな二人が、第一部のラストにおそらく出会った時よりも離れてしまった二人が、果たしてこれから手に取ることが出来るのか? 未来を築くことが出来るのか。

『狼と香辛料』では、先ほども言ったように、近代にむけて忘れ去られていく神様と、そういうものに真っ先に足を向ける(笑)商人という、相反する存在がくっつくという話だった。信仰と理性は結婚しない、うまく調和しないというのがいろんなところで語られていることだし、素朴な感覚としてもうまく結びつかない。それを華麗に……とは言えなくとも、飛び越えていったのがロレンスたちだけに、ハルにも頑張ってもらいたいですね。

 いや、まあぼくは完全に理沙派ですけど。「五年経って、良い男だったら考える」という台詞は、何かの伏線だと思いたい。第二部は五年後らしいし。そんな冗談だけでなく、理沙の歴史好き、本好きというのは何か意味のある設定なのだと予測しております。『WORLD END ECONOMiCA』というタイトルも、月での株取引も、ハルが前人未踏の地に立ちたいという理由もすべて伏線で、第三部に続いているということなので、完結編を今か今かと楽しみにしております。これからも辛い世の中になっていくとは思うんですが、この完結編をプレイするまでは死ねない。生き残ってみせる!

→OPテーマ「ワールド・エンド・エコノミカ」収録。

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