「――やっぱホライゾン救いに行くの、やめね?」(葵・トーリ)

 アニメ『境界線上のホライゾン』#7「武蔵の騎士」のネタバレ感想です。ネイトの「存分に。――我が王よ」、カットかー。この辺は、本当に原作小説が面白すぎるんで、そちらを読むことをおすすめします。僕は原作一巻では、一番面白く読んだ箇所です。


 原作を読むのが一番だとは思いますが、ネット通販ではなかなか手に入られない状況が続いているので(書店には大量に積まれてるので、受給が合ってないな、とは思います)、ちと解説めいたことを。ネイト戦はまだしも、シロジロの相対戦はガル茂さんの言葉もあってわかりやすかったですね。お金を媒介にした神奏術を使う極東だからこそ、世界の金融庫としてお金が集まる状況を維持できるなら、戦える。ここでは、理不尽な力に、抗う術を。

#聖連はキリスト教なので、高利貸しのような金融業が嫌われているわけですね。そのため、極東が各地にATMを置いていて、現在その中で唯一武蔵だけは各国の支配下から逃れているという現状。

 一方、ネイト・ミトツダイラが代表を務める武蔵の騎士たちの結論は、市民革命を引き起こし、市民の権限を高めることにあった(他国ではまだ市民が台頭していないので、結果的に他国よりも武蔵の市民の権限が高まる状況を作り、聖連の支配を緩和しようとした)。むやみやたらに民を戦いに駆り出し、傷つけさせるのではなく、次善の策を狙ったのが彼女たち。ここでは、理不尽な力から逃れる術を。

 この勝者二人の立ち位置を対極に配置しているのが、上手い。

 これまた一つの境界線の「向こう」と「こちら」側。

 カットされてしまっている箇所だとは思うんですが、オリオトライ先生と三要先生がそれぞれ生徒たちに教えてきたことを語るシーンがあって。そのときオリオトライ先生は理不尽な暴力に抗う=戦う力を、三要先生は理不尽から逃れる術を教え、本当はそのどちらかだけでなく、どちらも必要と語る下りがあるんですが、まさにその教師の思いが実を結んでいる瞬間でもあります。

 たった一人の女の子を救う

 そのためには、どれだけのことを考える必要があるのか。アニメの方ではさすがに映像表現しやすい戦闘描写に寄っている感がありますが、僕が一番魅力を感じているのは、ここなんですよね。本作独自の特殊な状況ながらも、たった一人の女の子を救うことがいかに困難か。どれだけの問題を抱えているのか。それを丁寧に描いて描いて描き抜いた先で、そのためにそれぞれが出来ることを精一杯やって、その目標に向かっていく少年達の姿がどれほど眩しいか。

 そして、何より……、誰かが誰かを救うと決め、そのための方法をひたすらに考え続け、助けに行ったとして、それだけで本当にその人を救えるのか? という部分まで踏み込むのが、素晴らしい。そのために本当に必要なことについてのヒントは、ホント至る所に描かれているので、注意して見てみてください。例えば、シロジロと直政が戦ったあとのやり取りとか、もうニヤニヤしちゃいます。というか、この臨時生徒総会自体が、その伏線なわけですが。

 そして、本当の意味でホライゾンを救うための前哨戦ともなるのが、トーリと正純の相対戦。それぞれの立場を対極として、討論する場だからこそ、自分はホライゾンを救わない立場に立ち、正純にホライゾンを救う意義を問うトーリの戦いが見事。「不可能男(インポッシブル)」と呼ばれ、何も出来ない男だからこそ、全幅の信頼をもって助けを求められる。いくらホライゾンを救うことが困難とはいえ、正純なら出来るという信頼。トーリはバカだけどただのバカでない。トンデモなくカッコイイバカなのだ。こーゆー、三枚目キャラが好きすぎるんで、僕はトーリが本当に好きなんだよなぁ。

境界線上のホライゾン 〔Horizon on the Middle of Nowhere〕 1 (初回限定版) [Blu-ray]
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境界線上のホライゾン1〈上〉―GENESISシリーズ (電撃文庫)
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境界線上のホライゾン1〈下〉―GENESISシリーズ (電撃文庫)
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