WS000838「みんな一人で片付けようとするところ」(綾瀬香純/氷室玲愛)

『ディエス・イレ〜アクタ・エスト・ファーブラ〜』のネタバレ感想/プレイ日記です。Chapter12「Skeleton in the closet」とChapter13「HOLY ARK」序章です。


 最終決戦を前に、第十二章と第十三章序章ではそれぞれ、蓮、リザ、ヴァレリア神父の背景(家庭事情)が語られます。物語前半の方で、ベイに指摘されていた、蓮の秘密とはどうやら、マッドサイエンティストの香純の父を殺した(厳密には殺したのは司狼ですが)ことだったっぽい。蓮が刃物嫌いというのも、ここから来ているようです。

 これによって、蓮が頑なまでに「日常」に固執していたのは、香純の「日常」に異物を交えてしまった後悔から来ていて、その事実を香純に伝えるのを少しでも後らせるために、「いま」に執着し、先伸ばしていたことが判明。そんな蓮とは違って、もう決着をつけてしまおうと司狼と意見が分かれたことが、プロローグでの大喧嘩の理由だったようです。

 しかし、その事実をどうやら香純も知っており、隠している蓮のことを思って、騙された振りをしていたのが正真正銘の真相。いまと変わらぬ、相手のためを想った一人相撲を十一年も続けてきた二人でしたが、前回愛を語り合っていちゃいちゃえろえろしたせいか、香純覚悟を決めて、単身ヴァレリア神父のところへ飛び出していきます。



 そして、リザの背景は思ったよりも、複雑で、どうやらリザは香純の曾祖母に当たるらしいです。念のため、もう一度言いますが、香純はリザのひ孫、リザは香純の曾祖母です(な、なんだってー)。ちなみに、玲愛も当然ひ孫に当たりますが、リザさんの身体的特徴は香純の方に色濃く出てしまったようです。これ、リザさんの胸にホクロがあったりするんだろうか(香純の胸にはホクロがあるという挿話がある)。そんなんで伏線を張っていたら、面白すぎるんですが。

 軍人として昇格していき、ドイツ人女性の憧れの的となり始めた友人エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ(ザミエル)の存在を危惧して(彼女以外の女に、彼女のような生き方はできない)、レーベンスボルンにて、普通の女として幸せをまっとうできるよう行動していたのがリザ。それを、メルクリウスやラインハルトの力を借りて達成しようとしたのが、間違いの始まり。超人創造機関として、超人を生むために超人が必要というメルクリウスの術式の片棒を担ぐことになったのは、彼女の動機(そして、知らずしてしまっているエレオノーレのような生き方)を思えば、皮肉としか言いようがない。そのために、犠牲にしてきた何千人ものこどもたちが、リザの蓄えていた魂であり、この戦いに臨んでいた動機だったようです。

 そして、(おそらくは)ラインハルトとリザとの間で生まれたのが、イザークとヨハン。このうち、ラインハルトの創造位階「城」を持続するのに必要だったのは一人だけだったので、ヨハンは死んだことにして日本に逃がし、イザークをリザさんは斬り捨ててしまったようです(ヨハンの血脈から香純が、ベルリン後生き延びたイザークからは玲愛が生まれた)。この「子どもが愛されない」というのも、ここに来て蓮や香純の境遇と被るところがあるので、覚えておこう。

 ここまで来ると、再三再四、櫻井さんと蓮の関係を疑った香純が、「世界の中心で愛を、ラブを、リビドーを」と叫んでいるのは、伏線のような気がするな。



「別人になりたい」(ヴァレリア・トリファ)

 そして、ヴァレリア神父。生まれた頃から、他の人が見えないものを見、聞こえないものを聞き、他人とは世界観を共有できなかったがゆえに、他者を救うのではなく、自分を救うため信仰に縋ったというのは、まさにキリスト者だなぁ。キリスト教は究極的には、自分だけが救われればいい(だから、結構他人自身にも他人の宗教には無関心だったりする)という宗教だと言われているので。別にそういうことを悪いと言っているわけではなく、それぐらい自分ですら助けるのは難しいということ。この辺り、ただひたすら相手のために自分を傷つけることを厭わない蓮と香純の対比になっている部分ではありますね。

 そんな神父さんだからこそ、自身の願いは「別人になる」こと。凡夫でもいい、しかし、みんなと共通の五感を持った、「ふつうの人間」でありたいと願った男が、いまはどうやらラインハルトの身体を使っている(回想シーンでは別人であり、神父の姿を団員が怖れるシーンあり)辺りが皮肉めいている。そして、ラインハルトから逃げ出し、そのため犠牲にしてしまった十人の子どものため、現在の戦いに挑んでいるのも、これまた皮肉。



 で、おそらくそんな誰かに焦がれ、「いま、ここ」にない自分になりたいと足掻き続けている黒円卓の面々(多かれ少なかれ、ここまで誰もがそうした願望を持つことがわかっている)に対して、「いま、ここ」にいる自分にできることを精一杯やろうとしているのが、香純や玲愛先輩なんだよなー。ある種女々しさすら感じて、それが逆に人間くささ(作中の言葉でいえば、俗っぽさ)として魅力になっている黒円卓の面々も良いですが、やはり彼女たちのようなまっすぐさも心地良い。

「蓮の悪いところ十個言えます?」からの下りは、ここまで見てきた彼のダメさ加減を再認する意味と共に、キャラを立てるという意味で有効な手かもしれないな、と思った。ラストの「みんな一人で片付けようとするところ」で、二人の声がシンクロするのも熱い。というか、読者のぼくとしても同じ印象だったので、無駄にシンクロ。少年漫画好きとしては、蓮くん、もう少し仲間パワーを信じてほしい。

 そんな蓮の出番を削るべく、神父へ挑むことを決意する二人。途中、櫻井さんに、「取り戻すんじゃなくて、蓮ならきっと取り落とさないようにする」と告げる香純。これは、第二章辺りの「死者に会う方法があったらどうする?」という問いに対する、解答ですね。あの時、大切な人だから、だからこそ、その人をゾンビのような存在にしてはいけないといった蓮。その心はそうした存在にしないために、絶対取り落とさないということ。蓮も香純も格好良すぎ。

Dies irae ~Acta est Fabula~ 通常版
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神咒神威神楽 初回版
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