STAR DRIVER<スタードライバー>輝きのタクト 3 【完全生産限定版】 [Blu-ray]「ねえ、タクト君」(アゲマキ・ワコ)

『STAR DRIVER 輝きのタクト』第二五話「僕たちのアプリポワゼ」のネタバレ感想です。サン=テグジュペリの『星の王子さま』を読んでいれば、かなりしっくり来るエンディングでしたね。


「ねえ、タクト君。二人の男の子を、こんなにも深く同時に好きになっちゃった女の子の苦しみが、あなたにはわかる?」(アゲマキ・ワコ)

 素晴らしい最終話でした。「神話前夜」では決して語られることがなかったクレイス、ワコの本音が語られ始めた瞬間は、展開の意外性(まさかワコの封印を解くのがタクトとは!)と相まって、震えが来た。感動。

 これまで「イカ刺しサム」や「神話前夜」などの物語、作中で男性側から女性側への想いは綴られておりましたが、肝心のワコやソラさんの想いは語られることがありませんでした。そんな彼女たちが、彼らに対してどう思っていたのかといえば、二人のことがどちらも好きすぎて、どちらかを選ぶことが出来ないというもの。

「神話前夜」では、クレイスがコルムナとマルクと出会った時期はズレていた。

 だからこそ、クレイスはマルクとのキスを受け入れることが出来たわけですね。あの時には、既にコルムナには彼女が見えておらず、必然クレイスはマルクを選ばざるを得なかった(し、それはそれで、彼女にとっても幸せなことだった)。これは、トキオの子を身籠もるというイレギュラーが起きたソラさんの場合もそうだし(そんな幸せさえ、結局得られなかったけれど)、今回スガタがザメクの封印を完了してしまえば、ワコはタクトと自然とくっついていただろう、未来の一つの可能性。

 だけど、その陰には、一人の男の犠牲があった。

 結局コルムナ――おそらく、「イカ刺しサム」の王様の過去の姿――は救われてはいない。だからこそ、、コルムナとマルクが同時代に出会えていれば、あるいは……という希望が残っていた(スガタのナイフとタクトの輝き、二つが揃うという意味で)。そして、そんな「運命の子」が同時代に揃ってしまったのが、現代の物語で。それがゆえに、ワコは苦悩することになってしまった。

「でも、わたし最近よく思うんだ。わたしはやっぱり、あなたに出会わなければ良かった。あなたが島に来なければ、良かったのに、って」(アゲマキ・ワコ)

 そんな彼女の独白を受けながらも(だけど、その想いがタクトに届くことはない)、宇宙(そら)に舞い上がっていくタクト/タウバーンは圧巻でしたね。描かれるとは思っていた、ありえない方法での南十字島からの脱出、こう来るのか! と。ゼロ時間の封印を破るのは確かにいつもゼロ時間外からやってくるタウバーン以外にはありえない。だけど、それはいちばんありえない可能性のはずで、それをここまで説得力溢れる描かれ方をするなんて。スタドラのスタッフは、まさにありえない!(笑)

 そして、そんな勢いよく飛び出して行っちゃう彼が、ヘッドのようにはならない(笑)と心底信頼できるのは、彼にはちゃんと大切なものが見えているから。

「僕には見えている!」(ツナシ・タクト)

 宇宙(そら)に飛び出しても、彼にとって大事なのは三人で見る空(そら)の方で。この辺りは、今日予習がてら読んでいた『星の王子さま』の展開を彷彿させますね。あちらの方は、地球から見る星々に「僕」が思いを馳せるところで物語が終わるのですが、こちらはむしろ宇宙から見た地球の空に想いを馳せる(一見対比されているようですが、僕の解釈だと同じものに想いを馳せている気がします)。

「凄い空だな」(シンドウ・スガタ)
「ああ、凄いな。でも、僕たちはこれから、これとは違う、もっと凄い空を、きっと見るさ」(ツナシ・タクト)


『星の王子さま』では、地球から見える数え切れない星々の一つで、“僕”が出会った王子さまが笑っているのでは? という希望を持って、星々を眺めています。そして、その他の星には“僕”にとっては縁のない、ちっぽけなものだけれど、そこにはいろんな人が暮らしている。笑顔で星を輝かせている。

 タクトたちが最後に見る地球の空の輝きも、同じものなのですね。ザメクが吸収したリビドー(輝き)が、それぞれ持ち主に返っていった後に、輝く地球の空。それはきっと、いまの彼らには縁のない、ちっぽけなものだけど、そこに住む人たちにはとっては大切な輝き。その中には、きっと島を出て行ったサカナちゃんやミズノ、マリノさんもいるでしょうが、ほとんどがタクトたちとは縁がない、懐いていない星々の輝き(僕の読んだ河野万里子さんの訳では、絆を結ぶことを「懐く」と表現しています)。

 だけど、ワコがタクトに出会うことができたように、タクトがワコに出会うことができたように、新しい輝きに出会うことはできるし、縁を結ぶこともできる。そして、ワコが持っていたのはそういう強さだった。

「いまでも、そう思う。だって、タクト君みたいな人が、この島に現れたりもするんだから」(アゲマキ・スガタ)

 幸村誠さんの作品に『プラネテス』というのがあります。この物語に登場する、確かロックスミスという人物は、「誰よりも遠く」を目指して、宇宙船を作っている人がいた。あるいは、ヘッドのように「誰よりも強く」在ることで、自分の思うがままの世界を作ろうとするヤツもいる。

「誰よりも遠く」、「誰よりも強く」、あるいは「誰よりも早く」。確かに、そんな強さにロマンを感じる少年のような心も僕の中になくはないですが、いまは素直にワコやタクトのような大切な誰かと「出会える」=「懐く」強さに憧れを抱きますね。それはきっと、タクトたち三人のように、ただの夕焼けを黄金の輝きに変えてしまう、本当の強さ。

「あなたは出会った時から、いつもわたしたちを笑顔にしてくれた。それこそが、あなたの第1フェイズなのかもね」(アゲマキ・ワコ)



 五十嵐監督や脚本の榎本さんをはじめ、スタッフの方々、素晴らしい作品をありがとうございました。この半年間、毎週毎週楽しみに見ておりました。きっと放送が終わっても、この作品が縁でいろんな人に出会えるのではないかと、そんな予感を胸に秘めております。そんな人との「出会い」を生む素敵な作品を作っていただき、ありがとうございました!!

 そして、これまでずっと僕の感想を読んでくださった皆さんも、今までどうもありがとうございましたm(_ _)m ずっと僕の感想を読んでくださっている方もいれば、この作品が縁でこのブログを知った人、いろんな方がいるとは思いますが、また別の作品でお会いしましょう。ではでは。

星の王子さま (新潮文庫)
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