「舞台の幕が上がったようだ」(エンドウ・サリナ)
『STAR DRIVER 輝きのタクト』第二十四話「ひが日死の巫女」のネタバレ感想です。本当に、ミセス・ワタナベが輝いておられる。格好良い。
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この感想を書く前に、いままでの感想をざっと読み返しておりました。2クールもので一話も欠かさず感想を書いたのって、おそらくダーカー第一期やダブルオー1stシーズンまで遡らないといけないぐらい、僕にとっては珍しいことなんですが(笑)、改めて読んでみるとなかなか興味深かったりします。その時々で感じていたことや読んでいた物語の影響が見えて、半年間の思考の変遷を伺うことができる。
そんな自分の変化がありながらも、なるべく作品側に軸を置いて、一つの物語を読むために一貫する筋を通したい、みたいな願望があります。なので、スタドラがどの辺りが一貫していたんだろう? と考えながら、一度再読していただけたらな、と思います。僕自身も(笑)、読み返すと、そのときは直観で感じていたのがいまになって腑に落ちたりと、新しい発見があり、面白かったです。それに、これまでの物語を概観するだけで、最終回がどんどん待ち遠しくなりましたしね。いやぁ、本当に楽しみだ!!
それでは、以下は普段通りの感想となります。
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「与えられた役割を演じるのは得意なんだ。それに、与えられた役をやるかどうかは、結局自分で決めるんだから」(シンドウ・スガタ)
子どもの頃、アプリポワゼしたワコが、至った境地にスガタも到達。あくまで与えられた役だったから、中学生の時の演劇もどれだけ喝采を浴びてもそれほど嬉しそうではなかった。それは結局、決して自身を輝かせるものではなかったから。だけど、今回彼が自ら選んだ役(エンペラー代表キング)は、自身を輝かせるためのものだと信じたいところ。
「巫女のサイバディとアプリポワゼした日の夜、泣くだけ泣いて。でも、夜中にお腹が空いて、食べたご飯が美味しかったとき、思ったの。世界はわたしを苦しめるためだけにあるんじゃないって」(アゲマキ・ワコ)
そして、これにて、「三人の物語」がついに動き出す。ヘッドたち三人の物語は悲劇に終わり、イカ刺しサムの物語は真実を見出した。そして、マルクとコルムナ、クレイスの物語は、希望を残しつつも、悲劇の予感を感じさせる。
「君の封印が解かれなければ、すべては次の世代、次の時代のことになる」(シンドウ・スガタ)
後の時代に託すこともできる。
だけど、マルクとコルムナが同時代に揃った現代の物語で、「神話前夜」では決して語られなかった少女クレイスの想いが綴られようとしている(そういう意味で、次回予告でワコの台詞が流れたときは、衝撃!)。少女の笑顔を守るために、ある少年は「輝き」を身に纏い、ある少年は「ナイフ」を手に取った。
そんな彼らに、少女は一体どう答えるのか?
「ワコはどうするの? どっちかに決めないの?」(マキナ・ルリ)
これまでずっと言ってきたように、本作では秘密を必ずしもすべてをオープンにする必要はなく、秘密(秘匿)も必要なものとして描かれている。だけど、それを言ったら、「神話前夜」のクレイスは自身の答えを秘匿しているわけで。この現代の物語では、ワコ自身の選択が、すべてを決定してしまうのだと思います。
#今回、第一話冒頭と同じ浜辺、同じ空、同じカットを前に流れ星が流れるシーンがあります。第一話ではワコが願ったことを答える機会がありませんでしたが、今回二つめの流れ星が流れたときで時間が止まっているのが面白いところ。まさに「星に願いを」。
マキに問われるワコが口をつぐむ一方で、ケイトの方は自身の誓いを露わにする。
「あたしは、心に決めた一人の男だけを思うのが良いけどな。あたしは、おばさんとも、あんたとも、違う」(ニチ・ケイト)
確かにはっきりと決められないワコの姿を見て、ケイトが苛立ちを露わにするのはわかるのだけど、彼女だって決して自身に素直になれているわけではなく。
「お願い。あたしに、永遠をください」(ニチ・ケイト)
どこかのヘッドさんと同じような願いを持ってしまっています。本当はソラさん自身がほしいのに、ソラさんを永遠化しようとする(超古代文明の遺産を欲する)ヘッド。委員長さんがヘッドに協力していたのは打算ということだけど、これだけ似ているのだから、ずいぶんと気は合っただろうなぁ。
だけど、ヘッドにはそれを糾弾してくれるサカナちゃんという存在があり、彼女を追放したことからもわかるように、うすうす勘づいてはいるんですね、自分の本音に。だけど、ケイトにはそんな存在はいない。だから、彼女は自ら「輝き」を放つことを拒否してしまっている。
「あたしの、銀河には最高の綺羅星が輝いている」(ニチ・ケイト)
それがヘッドと似ている彼女の決定的な違い。だから、スガタの、
「ケイト。きみ“も”生き延びてくれ」(シンドウ・スガタ)
という言葉がちゃんと届いていない感があるんですよね。この戦いを生き延びて、スガタはケイトにどうしてほしいのか? 輝いてほしいんじゃないのか。太陽の光に近づきすぎるあまりに燃え尽きてしまうのではなく、誰かに尽くすだけでなく、彼女自身にも輝いてほしかったのではないか。
「あなたは、本当のあなたになれる。あたしはあなたのために生まれてきた巫女なんだ」(ニチ・ケイト)
だから、「本当のあなた」ではなく、「与えられた役」に殉ずる覚悟をしたスガタとケイトの会話には、強烈なズレを感じさせるんですね。彼が「与えられた役」に殉ずる覚悟を決めたのは、なぜなのだろう?と。
それに、ケイトはスガタがワコのことしか眼中にないということを言っていたけれど、おそらく彼が今回の覚悟を決めた一端にケイトの存在もあったはず。スガタとケイト、ワコの三人の物語において、閉じた人(タクトと同じように「輝きたかった」人)はケイトのはずなので。視聴者的にも、スガタ君的にも、あのカラオケシーンのように輝いてほしかったけど、ちょっと難しそうですね。無念じゃ。
その一方でヘッドさんは留まることを知らぬ。サカナちゃんの糾弾、うすうす勘づいている自分の本音を否定するために、ひたすら邁進し続けてた彼。ヘッドさんは、ここまで来たらもう僕も完全に諦める他ありませんが、相当ダメな人で。もうどうしようもない感じになっちゃっているんですが、一つだけ素晴らしいところは、それでもまだ自身が輝こうとすること。
「今度は俺が夢を見る。長く楽しい夢をね」(ミヤビ・レイジ)
ただおそらく彼は、結局「輝き」も「ナイフ」も両方を求めてしまうがゆえに破綻してしまう人なんだろうと思います。それこそ、ケイトがあたかもスガタがいま生きているのは自分のおかげだと誤認しているように。
「あの日、あたしもアプリポワゼした」(ニチ・ケイト)
あの日、スガタが死なんとしていたその刹那、それでも彼が生き長らえたのは、ケイトと、そして、ワコ、二人がいたから。決してどちらか一人の存在があったからというわけではなく、二人がその場にいなければ、三人組でなければ、スガタがいま生きていることはなかった。
それこそ、少女の笑顔を守るためには、二人の騎士が必要なように。
幼き少年の笑顔を守るためには、二人の少女の存在が不可欠だった。
三人組だから、この物語は先に進めることが出来ると、そんな風なことを書いておりましたが、ここまで圧倒的に三人組を肯定してくるとは思いませんでした。今回の、スガタやワコ、ケイトの三人組だけでなく、前回のフィラメントの三人。そして、今回は他にも「おとな銀行」の三人。
「何のために、こんな大きな船を持ってきてると思っているの?」(ワタナベ・カナコ)
「……格好良い」(ダイ・タカシ/シモーヌ・アラゴン)
人妻女子高生は豪華客船暮らしという、トンデモ設定が反転。実は、封印解除の際の緊急避難用に持ってきていたというまさかの種明かし。タカシやシモーヌならずとも、思わず「格好ええ」と呟いてしまった。
そんないろんな三人組の悲劇や希望を描き続けてきたスタドラも残すところ、あと一話です。刮目して待つ!
「またいつでも見られるさ」(シンドウ・スガタ)
「けど、今日のこの空は、今日しか見られないのよね」(アゲマキ・ワコ)
「大丈夫。僕たちはこれから、これとは違う、もっとすごい空をきっと見るさ」(ツナシ・タクト)
→Blu-ray&DVD第3巻、4月6日に発売決定。
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→前回第23話「エンペラー」の感想へ
→次回第25話「僕たちのアプリポワゼ」の感想へ
→『STAR DRIVER 輝きのタクト』の感想インデックスへ
コメント
偶然でありながら、現実世界の危機とリンクしてしまった感がありますが、スタドラ世界では一人たり
とも脱落者が出ないことを、切に願います。
ザメクという巨大な船で世界を混乱に向かわせるレイジには、大きな船で人を救わんとする人妻さんの
パンチをぜひ喰らって欲しいです(笑)。
ケイトが同じ巫女でありながら、恵まれた環境にあるワコに憤る様は、父親からシルシを継承させて
貰えなかったことを恨むツナシ・トキオとどう違うのでしょう?
「一人を想い続ける」ケイトと「君も(ワコも)生き延びろ」と答えるスガタは、無理心中に発展
しそうな
前者と、想い人を恋敵に託せた後者として、交わること無き永遠の平行線となってしまいそうですね。
親友が夭逝した過去を持つタクトが、その生命力で漂う死の予感全てを薙ぎ払ってくれるのなら、
スガタという
ナイフから、タクトという輝きが放たれることになるのでしょうか。
そういえばスター・ソードって「輝くナイフ」そのままですね。
スガタとタクトは、やんわりとワコに選択を迫っているわけですが、現状が心地好くてはぐらかして
ばかりの彼女もまた、レイジやシンゴとどう違うのでしょう?
選択の時、ワコはきっと胸が潰れるような思いに苛まれるのでしょうが、フィラメント組のベニオも、
いい加減負けを認めてジョージとテツヤを解放して欲しいですね。
ところで22話でハナが登場した理由を考えてみたのですが、サイバディを譲り受け、ハナを置いて冒険を
求めて島に来たタクトもまた、イカ刺しサムであるということなのかも知れません。
>れおぽんさん
どうも、かもめです。続けて、お返事を。ノって来ました(笑)。
>偶然でありながら、現実世界の危機とリンクしてしまった感がありますが、スタドラ世界では一人たりとも脱落者が出ないことを、切に願います。
>ザメクという巨大な船で世界を混乱に向かわせるレイジには、大きな船で人を救わんとする人妻さんのパンチをぜひ喰らって欲しいです(笑)。
創作には、なぜかこういう瞬間が付きものですね。そして、現実でも創作でも、来るかどうかもわからぬ(人妻さんの場合は来ることがわかっていましたが)「準備」を怠らなかった人が強い。そして、それはきっとタクトにも言えることなんですよね。
ヘッドの言葉によれば、幼少からスタードライバーとして訓練を受けていた。だけど、ナツオの死を経験するまでとてもじゃないですが、そんなヒーローのような生き方をする少年ではなかった。だけど、準備だけはきっと続けていたいんですよ、何かもわからぬ「凄いことをやる」ために。
>ケイトが同じ巫女でありながら、恵まれた環境にあるワコに憤る様は、父親からシルシを継承させて貰えなかったことを恨むツナシ・トキオとどう違うのでしょう?
>「一人を想い続ける」ケイトと「君も(ワコも)生き延びろ」と答えるスガタは、無理心中に発展しそうな前者と、想い人を恋敵に託せた後者として、交わること無き永遠の平行線となってしまいそうですね。
感想の方にも触れてますが、基本的にケイトとトキオは似せて描かれていると思います。逆に、そうなると、れおぽんさんのご指摘通り、ヘッドと似ていたはずのスガタの選択が、ヘッドがするものとは似ても似つかぬものに成っているのが面白いと思います。きっと、タクトの「輝き」に当てられたんでしょうね。
続きます。
続きです。
>親友が夭逝した過去を持つタクトが、その生命力で漂う死の予感全てを薙ぎ払ってくれるのなら、
>スガタというナイフから、タクトという輝きが放たれることになるのでしょうか。
>そういえばスター・ソードって「輝くナイフ」そのままですね。
おおっ、それはもしかすると、凄まじい読みじゃないでしょうか>スター・ソードって「輝くナイフ」そのまま。リビドーにも喩えられていたスターソードですが、そう考えると、タクトが二本スターソードを使うというのも意味ありげですね。深い。
タクトにとっては、この南十字島の物語は、「二週目」という捉え方が出来ると思っています(一週目はナツオたちとの三人の物語)。一週目で自分が気づかなかったナツオの死の兆候ですが、今回のタクトは気づいた。ならば、信じるほかありません。彼ならば、と。
さらに続きます。
らすとわん。
>スガタとタクトは、やんわりとワコに選択を迫っているわけですが、現状が心地好くてはぐらかしてばかりの彼女もまた、レイジやシンゴとどう違うのでしょう?
>選択の時、ワコはきっと胸が潰れるような思いに苛まれるのでしょうが、フィラメント組のベニオも、いい加減負けを認めてジョージとテツヤを解放して欲しいですね。
三人組が是とされる物語だと思っているので、誰かを選ぶことに重きは置かれていないのではないかと思っております。カタシロさんもソラさんと添い遂げることよりは、三人の関係を良い関係のまま続けていくにはどうすれば良かったのだろう?と苦悶しているキャラだったので。
ワコの(タクトに)「会わなければ良かった」という台詞も、その辺りにかかってくるのではないかなぁ、と。
>ところで22話でハナが登場した理由を考えてみたのですが、サイバディを譲り受け、ハナを置いて冒険を求めて島に来たタクトもまた、イカ刺しサムであるということなのかも知れません。
そこは難しいですね。僕は、タクトをイカ刺しサムだとは思っていないような気がします。理由を説明するのが難しいのですが、タクトにはそーゆー物語を背負っているような印象を受けないからですかね。うーん、難しい。