連載開始時からすごく好きな漫画だったので、読み終わってしまうのがもったいない、と思ってしまいました。帯に書かれている吹奏楽部に入りたくなる漫画というよりは、部活をやっていた人なら(もしかしたらやったことない人も)、誰もが思い浮かべるあの放課後の時間に帰ってみたいと思わせる漫画です。放課後良いなぁ。


 テーマとしては二部構成になっているかな、と思ったりします。
 前半(一巻と二巻)は、自分が思う「価値」と他者の「評価」、どちらを優先するのか。
 後半(三巻と四巻)は、高みを目指して「理想」を追い続けるのか、それとも楽しい「部活」のままでいいのか。

 この二つの視点から描かれているんですが、その両方共が「放課後の時間」へと帰って行くのがすこぶるイイ。



 前半のテーマだと、松田梓さんが部活に帰ってくる辺りが物語のピークですよね。校長先生が他者の「評価」を重視する最右翼というなら、梓さんはそのカウンターとして登場してきた感があります。自分たちが良いと思える演奏ができるなら、コンクールの結果なんてどうでもいいという。そんな彼女が、留年三人組をも取り組んで練習する一年生を見て、自分がほしかったものに気づく辺りが、すごく良い。

 他者のものさしに測られたいわけじゃないけれど、その場であるコンクールを目指してみんなで頑張ってきたという時間は、何ものにも代え難い。そのためなら、他人のものさしに測られることも辞さないと言い切る矢沢くんもかなり格好イイですね。

「評価」と「価値」というテーマが、うまく止揚した感じ。やっぱりどちらか一方に偏ってしまうのはバランスが悪いと思うので、この辺りのさじ加減が本当にもうたまらなく素敵です。この際に「評価」や「価値」を超えるものとして描かれているのは、小宮山先輩が語っていた「色」(感情)なんかでしょうか。一年生だけで練習していた時に、藤本さんが言っていたような、コンクール前って「感じ」ですね。

 そして、それが、放課後の時間。



 後半は、賢洋高校が出て来た辺りからが本番です。「ステイゴールド」、輝き続けるために理想を追い続ける賢洋高校と、楽しい部活でも良いんじゃないかと思って頑張ってきたチヨコー。本格的な演奏バトルになるのかと思っていましたが(笑)、敵というよりはライバルといえる関係に収まった感じですね。もちろんチヨコーの実力は足下にも及んでいないんですが、お互い刺激を受けて成長しあっているという点で、実にライバルっぽい。イイですねこの人間関係。

 ここでの主役は紛れもなく月川と天野なのですが、これまたきれいに収まっていきました。最初は「評価」側なのかなぁ、と思っていた月川も、父親と比較されるのが嫌で音楽をやっていなかったという。それでも、父親が死んだ時、「何か」を受け取って、今度はそれを天野に託すことができた。そういう決断に至った、平音たちとの放課後は無駄ではなかった、と。彼自身が色について語るところは、本当に素晴らしいですね。みんなで見てきた「青」でなければいけないんだと。だからこそ、コンクールでも平音にソロを譲ることができた。

 吉良直澄を追い、理想の音を求め続けた天野も、またイイキャラしてますね。月川海澄の音楽に、彼独自の色を感じ、スペリウスには自分の求めるもの(=月川直澄)はないんだと気づいてしまった。自分の中で鳴っている音以外に感じられないんだと。そう悟った上で、それでもあの人を感じられるからと月川からスペリウスを託される。そして、直澄と会話しているのが、「放課後」というのも決まってます。



 それでもやはりこの物語の主人公は平音くんだろうと。充実しているわけでも充実していないわけでもない灰色生活を送っていた彼が、吹奏楽に出会って、壁にぶつかって、その理由を考えて、どんどんステージを上げていきます。『放課後ウインド・オーケストラ』は紛れもなく、彼の成長譚。

 作中でも、自分で考えられる子と評されている彼ですが、その言葉通り壁にぶち当たる度に立ち止まって考えます。最後の最後、コンクールの時「吹いてもいい?」と聞いた時は割と何も考えていなかったっぽいですが(笑)、それこそ自分の中で芽生えつつあった「色」を試してみたかったんでしょうね。それに対して、

 藤本だけはやたらと嬉しそうなカオをしていた

 と、締めるのがもうやばい。藤本さんが中学時代にソロを任された理由を察していた彼に対して、藤本さんなりの答えでもあるという。もうこの辺りの二人の関係が素敵すぎてたまらないんですが。

 最後もまた壁にぶつかったところで終わっている(答えを出さなかった)ところなんかも彼らしくてイイですね。新たに芽生えた「色」が何なのか分かっていない平音くんに、その気持ちをそのまま覚えておいて、とアドバイスする松田さんもイイ先輩しています。先輩と後輩の、こういうやり取りも放課後の醍醐味だよなぁ。

 そして、去っていく人もいる「放課後」はまだまだ続いていく、と。かなり余韻のあるラストで本当に良かった。これからも、何か立ち止まることがあったら、読む漫画になるんだろうなと思います。超おすすめ。

放課後ウインド・オーケストラ 1 (ジャンプコミックス)
放課後ウインド・オーケストラ 1 (ジャンプコミックス)
放課後ウインド・オーケストラ 2 (ジャンプコミックス)
放課後ウインド・オーケストラ 3 (ジャンプコミックス)
放課後ウインド・オーケストラ 4 (ジャンプコミックス)