「初めまして、銀<イン>。……久しぶり」(アンバー)

 今回のテーマは、ディケイド(ノーベンバー11の上司)が語った「覆水盆に返らず」――起こってしまったことはもう元に戻せない――だと思うんですが……、アンバーの退行もあって、ちょっと混乱気味。
 あるいは、「覆水盆に返らず」をひっくり返すのが今回のテーマかもしれないですね。


「覆水盆に返らず」というのは、すなわち、時間は過去(水がこぼれていない状態A)から未来(水がこぼれた状態B)へと流れ、決してB→Aへと移行しないという、不可逆な時間の在り方について、コメントした諺です。
 つまり、ディケイドさんの言葉を借りて、脚本の野村祐一さんは念押ししているわけです。時間とは、過去から未来へと流れ、決して逆戻りするものじゃないんだよ、と。

 ……ですが、アンバーの姿がどうもおかしい

 黒<ヘイ>との会話――おそらくは、五年前南米での――の方が、今よりもずっと大人びいている。昔のアンバーさんは、黒<ヘイ>と比べても大差ないぐらいの年齢に見えますが、今の彼女はどう見てもそれより幼い。

 つまり、彼女に限っていえば、どうも未来から過去へも時間が流れている感じ。それが何を意味するのか今の所よくわかりません。アンバーさんは可逆的な存在で、こぼれた水を元に戻せる唯一の人(笑)ってことなのかなぁ。

 時間とは過去から未来へと流れ、不可逆と定義した上で、この不思議な齟齬。次回(なのかどうかわからないけれど)の種明かしが楽しみ楽しみ。

※捕捉
 時間の流れ云々という考察抜きで、アンバーさんの変化は説明できたりします。単純にアンバーさんの能力が自身を変化させる変身能力だとすれば、ノープロブレム。万事解決です。



 はにかんだ笑顔が印象的なアンバーさんですが、どうもあの笑顔とか、裏切りとか、契約者として生きていくための「処世術」のような気がするんだよなぁ。

 ようは、何もかもが嘘くさい、胡散臭いんです。
 本心を誤魔化し、周りに隠しながら、生きている感じ。



 思えば、契約者になったことを悲観し、憂えているキャラクターって、登場してませんよね。前回、前々回のエピソードで、契約者には「心」も「夢」があり、誰もが人間だった頃を追い求めているのがわかりましたが、契約者である自分を否定している登場人物はいない……あっ、ハヴォックがいるか。
 でも、ハヴォックは契約者から喪失者へと変化して、喪失者の立場から殺戮の限りを尽くした契約者の自分を見ていたからなー。アンバーに対して抱いている印象とはまた違うんですよ。上手く言葉にできないんですが、契約者である自分に絶望している、でも、その状況を変えることができず、どうしようもない……って感じでしょうか。うん、よくわからない。うーん、契約者になってしまって、人生諦めまくっている感じかな(笑)。

 えっと、アンバーさんの印象の話で、まだ話していないのは、黒<ヘイ>との会話辺りですね。

「逃げようか……、どこかへ、どこか遠くへ。あなたと……白<パイ>と私と三人で」
「どこへ?」
「星の見えるところ」


 アンバー自身も冗談っぽく「星の見えるところ」と言って、黒<ヘイ>も偽物の星空を眺めながら冗談だと受け取る場面ですが、アンバーさんの場合、こういう物言いをした時の方が本音だったりするんじゃないか、と思いながら見てました。本音こそ冗談っぽく言う人、周りにいません? 僕的に、アンバーさんはそんな感じの人。

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