イナイ×イナイ


 けれども、目の前にあるもの、この古い屋敷の内部、擦り切れた木目、赤茶けて変色した壁、ここに漂っている空気、それらすべてのものたちが、妙に落ち着いている。ああ、そういえばそんなことがあったね、べつになにがあっても不思議ではないよ、といった諦めのような表情を見せているかのようだった。
 こういう場所があるのだな、ずっと昔からここにあったのだな、と真鍋は思った。


 森博嗣との出会いは衝撃的だった。
 それまで割とテレビっ子で、本といえばライトノベルを漫画のような感覚で読むぐらいしかしていなかった僕が、それ以降、テレビに脇目も振らず、森博嗣の著作を何度も貪るように読んで、あろうことか、小説まで書き始めたのだから、森博嗣が僕に与えた影響は、今世紀最大だと言っても良い(まだ十年も経っていないが)。その時書いた小説のタイトルは「優しい人」という。実は、一時期「小説&まんが投稿屋」というところに載せていたことがあった。こんなことを書くのは、巡り巡って、そのとき読んでくれた人が、またここを訪れてくれたら、面白い縁だなぁ、と思うからだ。まあ、それは所謂「砂漠の真ん中で米粒を探すようなもの」だけど。「かもめは本を読まない」で続きを読む。